医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

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投稿原稿

● 医学ジャーナリスト協会2月例会講演 「現場から見た医療制度改革」
第4部:在院日数の短縮の効果は疑問
中澤 堅次
 日本中の急性期病院で在院日数の短縮が進んでいます。「日本の急性期病院は欧米に比較して病床数が多い、それは在院日数が長いからで、日本の入院医療の効率が悪いのが原因」とされていて、在院日数を減らすことで欧米のスタンダードに近づけば、もっと医療費は削減されると考えられています日本中の急性期病院で在院日数の短縮が進んでいます。「日本の急性期病院は欧米に比較して病床数が多い、それは在院日数が長いからで、日本の入院医療の効率が悪いのが原因」とされていて、在院日数を減らすことで欧米のスタンダードに近づけば、もっと医療費は削減されると考えられています。
急性期医療の国際比較
図1 1998年OECDのデータ、厚生労働省が使用する資料より
 図1はこの根拠とされているデータです。病床当たりの看護婦数が極端に少ないことも、「病床数が多いからで、在院日数が減って病床数が少なくなればこの数値も改善される」という国立病院医療研究所などの説が根拠になっているように思います。しかし、この議論は間違っていてその政策により医療費が減ることはありません。現場の意見は、変わるのがいやだからとか、自分たちの保身のためだとかいわれ、そうでなくても馬鹿にされて通らないことはわかっています。でもいま聞いておいてください。そして数年後でいいですからほんとかどうか、結果を皆さんが検証してください。医薬分業が薬品費をかえって押し上げてしまったように、わが国の官僚は政策の誤りでおきたことは公表しませんし、私たちは忙しすぎて検証してみなさまに示す余裕がないので、祈るような気持ちでお願いしています。以下にその理由を説明します。
【1.日本とアメリカの在院日数は違ったものを比較している】
アメリカ入院の一例  左の表は私の同僚がアメリカの病院に見学にいって調べたものです。急性膵炎で入院した方が9日間で退院しています。急性膵炎は9日では治癒しないので、この方は退院したあとナーシングホームという病床数にカウントされない施設に移っています。
日本ではこのまま30日かもう少し入院し、食事も出来て歩けるようになってから退院します。病院のところだけ見れば日本の入院は長い、看護婦さんはだらだら診ているということになりますが、アメリカの病院は超急性期の病人さんだけしか見ておらず、日本は回復期まで面倒を見ている。このハンデを無視して在院日数を比較しても意味がないのです。
 アメリカで看護業務を経験された方の話では、アメリカの急性期病院では歩ける人は入院していない、日本のICUのイメージに近いといわれます。極端な比較になりますが、日本のICUとの比較でよいのであれば、日本のほうが病床数は少ないでしょうし、入院日数もベッドあたりの看護婦数もすでにアメリカと似たような数になっていると思います。ポイントがずれるのでここでは触れませんが、看護師の役割自体もアメリカと日本では異なるのです。違うものの比較を、ことさら取り上げて政策の根拠にするのは、何かの意図があるのかそれとも事実を知らないで政策を立てているのかと思ってしまいます。
【2.アメリカの在院日数が短いのは入院費が高いから】
 図2には入院にかかった費用も書かれています。左側にアメリカの実例を、右側には同じことを私たちの病院で行ったと仮定した費用を示しています。アメリカでは入院費が高いから、早く退院したいというのが入院した方のニーズであり、めったなことでは入院は出来ないとみんなが考えていると思います。日本の病人さんはたいした負担でないから入院を望まれるし、入院を勧められれば簡単に同意されるのとは大きな差があります。
【3.在院日数を短縮するのは回復期の入院期間を削ること】
 病気の治癒は自然の回復力が主役であり、それには一定の期間が必要です。同じ病気を見ていて何故入院期間がアメリカでは短いのか、私たちには大きな謎でしたが、これでやっと納得がいきました。在院日数を短縮するには回復期をカットして医療から切り離し、ご家庭か介護施設にお移しすればいいのです。問題は個人のパワーが弱い日本で、高齢者のご家庭がどれだけこれに耐えられるか、回復期施設という新しい受け皿を介護型病床がやってくれるのかということだと思います。考えようによっては急性期病院が今のように長く見るシステムのほうが、高齢化社会の病気の性格からみれば合理的という見方は捨てることなく検証していただきたいと思います。
【4.急性期病院の入院日数短縮は実質的に増床になる】
 入院日数を減らせば空床ができます。需要が高い救急病院ではあいたところに救急の病人さんが入ります。仮に入院期間が半分に短縮すれば2倍の受け入れが可能になる計算です。新しい入院者も急性期ですから、人出もかかりスタッフも増やす必要が出てきます。問題は需要があるかどうかですが、高齢者医療の特徴は需要が大きいことです。軽症者に入院の適応を拡大する手も使えます。忙しくなった分、人さえ確保すれば実質的な増床は可能です。

 アメリカの病院では一病棟あたりの病床数は20位です。日本は回復期の人も入院しているので50床が普通です。50床の病棟にこれからはどんどん病人さんが出入りするのですから、世界的に見ても未知の領域に踏み入ることになり、相当なことを予想してかからないといけないかもしれません。リスク管理も新たなものが必要になり、ハード面では新たな投資が必要になるでしょう。
【5.回復期ケアの受け入れで急性期病床は減らない?】
 病人さんが集まらない病院では、介護型になってくださいというのが厚生労働省の構想ですが、そのとおりに行かないかもしれません。なぜなら急性期病院が手離した回復期の病人さんを受ける施設が必要だからです。介護型にはこの機能はありません。回復期リハビリテーション病棟はこの機能の一部を満たすことになりますが、入院日数の削減誘導が厳しくなればなるほど回復期の需要は増えるので、簡単に減ってもらっては困る事情もあります。同じものを機能で分けただけですから病床が減るわけはないのです。
【6.急性期病床は減っても医療費は下がらない】
 医療費はどうでしょうか、たとえ急性期病院の病床が減り介護型が増えたとしても、国民全体にかかる負担はそんなに削減されません。玉突き式に在宅に送られた病人、特に高齢者は、具合が悪くなればまた、超急性期病院に送られて延命医療を受け、寝たきりか要介護状態で介護型、在宅とまた同じ循環を繰り返すことになります。ここでご注意いただきたいのは、超急性期病院は一番医療費がかかる施設です。ここの吸引力が上がり、全ての国民がここを通るのですから医療費削減効果は疑問です。
【7.玉突き政策が成功した場合のメリット】
 玉突き政策がうまくいって、急性期病床が介護病床に変わるメリットはただひとつ、それは医療保険の歳出の一部が介護保険に移ることです。健保組合は延命ができて、国の肩代わりも少なくなりますが、介護保険も税金のようなもの、介護保険に移ったからといって国民の負担は変わりません。これだけの目的であれば帳簿上だけの話し、もっとほかにやり方があると思います。高齢者救済という戦線から健保と国の一部が撤退する。その撤退支援を、戦線に止まっている医療従事者や自治体がやらされる。何年経ってもこの国は変わらないのかと思います。
【8.問題は高齢者のケア】
 このシステムで高齢者は安楽な死を迎えられるのでしょうか、超急性期病院ではお荷物扱い、延命治療を施され不完全のまま早期退院、中には尿道に管が入っていたり、気管切開をしていたりしている方もいますから、残った高齢の配偶者が面倒を見ることは出来ません。一方、急性期病院ではスタッフが血眼になって飛び回り、病人が列を作る。家族は次の病院探しでくたくた、そばにいて手も貸さない評価者が腕を組んで見つめている。政府は後ろを向いて別の金勘定に忙しい。そんなシステムが目に浮かびます。
【9.高齢化社会に適した急性期病院】
 高齢者が急に病気になったときにどんな病院がのぞましいと思うでしょうか、すごい機械器具がそろっていて、気管に管を入れ人工呼吸器を使って生かせてくれる病院でしょうか、高齢者が必要な病院とは、とりあえず入院が可能で、無理なく介護できるところへ送ってもらえる施設です。高度の医療をしてまで生き残ろうという意志はありません。

 救急救命センターの入院者は80%が65歳以上といいます。高齢者の疾患はほとんどが救急です。それならば老人専用の急性期病院を整備してはどうでしょうか、高齢者の延命治療は大変ですが、苦痛を緩和する医療は難しくありません。原価に基づいた報酬ならばDRGや定額制も導入が可能と思います。そしてその施設は自己負担率を下げるのです。延命をしたい人やご家族は一般と同じ負担で急性期病院にかかればいいのです。医療法の改定により高齢者の自己負担率が上がったのですから、無意味で人工的に生きることの意味は真剣に考えられなければなりません。
【9.高齢化社会に適した急性期病院】
 高齢者が急に病気になったときにどんな病院がのぞましいと思うでしょうか、すごい機械器具がそろっていて、気管に管を入れ人工呼吸器を使って生かせてくれる病院でしょうか、高齢者が必要な病院とは、とりあえず入院が可能で、無理なく介護できるところへ送ってもらえる施設です。高度の医療をしてまで生き残ろうという意志はありません。

 救急救命センターの入院者は80%が65歳以上といいます。高齢者の疾患はほとんどが救急です。それならば老人専用の急性期病院を整備してはどうでしょうか、高齢者の延命治療は大変ですが、苦痛を緩和する医療は難しくありません。原価に基づいた報酬ならばDRGや定額制も導入が可能と思います。そしてその施設は自己負担率を下げるのです。延命をしたい人やご家族は一般と同じ負担で急性期病院にかかればいいのです。医療法の改定により高齢者の自己負担率が上がったのですから、無意味で人工的に生きることの意味は真剣に考えられなければなりません。
【10.高齢化先進国】
 日本は高齢化先進国です。高齢者の疾患は回復に時間がかかり、手術による機能回復は限られています。手術数が多く、在院日数が短い急性期病院は高齢者の医療ニーズにかなったものとはいえません。誤った認識で制度をいじるのはやめ、改革は病を得た高齢者が死を迎えられるまで安住できるシステムを作ることに焦点を置くべきです。おことわりしますが、私たちは逃げで言っているのではありません。基幹の病院で、救急入院者の受け入れが増えることは地域にとってもいいこと、クリニカルパスは日本人が最も得意とする分野です。今は新しく病人さんに生じるリスクを回避するために、マンパワーの確保が課題です。
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