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● 医学ジャーナリスト協会2月例会講演 「現場から見た医療制度改革」
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| 平成14年の診療報酬の改定がこの4月から実施された。今回の改定の特徴は、医師の技術料である診療報酬がマイナス1.3%減額されたことで、診療報酬の減額は昭和36年に国民皆保険制度が発足して以来、初めてのことである。 医療行政はこれまで意図的に手厚い点数を与え、在宅医療や院外処方などの政策を誘導してきた。しかし今回の改定では、行政の意に添わない医療機関の収入を取り上げる減算主義を打ち出してきたのである。具体的には、医療安全対策、院内感染対策、褥瘡対策を実施していない病院は診療報酬を減額すること。さらに一定の手術件数を満たさない医療機関の手術料を3割カットすること。また同様の減算手段によって、以前から批判のあった「社会的入院」「待合室のサロン化」を解消するために、6ヵ月以上入院している患者の保険給付の見直し、外来では再診4回目以降の減算がなされた。 |
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| 診療報酬のマイナス、減算による政策誘導、国民への負担増、今回の改定は唖然とするほど厳しいものである。この医療現場を無視した医療改定に、諦めの気持ちになった医療関係者、診療が成り立たないと言葉を失った医療関係者、さらには日本の医療の将来を危惧した医療関係者が多かったことと思われる。はたしてこのままでよいのだろうか。医療の現場で働く私たちにとって、国民医療を後退させた医療行政の流れを断ち切る必要がある。 そのためには、まず私たち医師が日本の医療の現状を正確に理解し、医療行政の流れがいかに間違っているかを再認識することが必要である。医療問題が騒がれている現在、日本の医療が変わろうとしている現在、愚痴を言い合っている状態から脱し、医療に携わる者が正しい医療のありかたを医療の主役である国民に説明し、私たちの考えに同意してもらうことが急務なのである。医療関係者の生活を守ることだけでなく、日本の医療を少しでも良くすることが私たちにかせられた責務なのである。 |
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| 【1.日本の財政事情】 日本の医療は様々な問題を抱えているが、最大の問題は医療財源が困窮していることである。医療財政が医療問題の前提にあるので、日本の医療を議論する場合には、日本の財政事情を知ることが出発点となる。まず日本の国家予算から日本の医療財政について説明したい(図1)。 |
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| 平成13年度の国の歳入(収入)は全体で84.9兆円、その22%が所得税、法人税、消費税が各12%、その他、タバコ税、酒税などの諸々の税が16%となっている。そして特別国債、建設国債を合わせた予算の4割を国債で補っているのが特徴である。つまり予算の4割を国債という借金で補っており、日本の財政は大変な借金財政といえる。小泉総理が借金を少しでも減らすために国債費30兆円枠を公約している理由がわかると思う。次に国の歳出(支出)になるが(図2)、支出については国債費が26%、地方交付税が16%、社会保障が20%となっている。そして社会保障費の約60%、10兆円が医療関係の予算で、国民健康保険や老人保健などの赤字の穴埋めに使われている。このように日本の予算は収入、支出ともに国債費が大きな割合を占めていることが分かる。いわゆる借金をして借金を返す自転車操業の予算になっている。 日本の借金は地方の借金や国鉄の借金などをあわせると約700兆円で、この金額は国民1人当たり約600万円の借金に相当する。まさに日本国全体がローン地獄状態になっているのである。子供のクレジットカードで買い物をしているようなもので、このままでは子供や孫たちに膨大な借金を残すことになる。このような借金事情のために財政改革が叫ばれているのである。そして借金財政であるから医療費をなるべく出したくない。つまり国が負担している10兆円という医療費の国庫負担分を少なくすることが政府の政策になっている。 |
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【2.日本の医療財政事情】
日本の医療は保険制度を基盤としているので、保険料と患者の自己負担分だけで国民医療費を賄えれば問題はない。しかし実際には医療費全体の3分の1が赤字のため、赤字の部分を国庫から25%、地方から8%だしてもらっている。このように日本の医療費は30兆円と膨大であること、しかも国から3分の1の補助を受けていることがヤリ玉に上げられている。 しかし国民医療費をどのように負担するかは、その国の政府の考え方による。日本では医療は保険制度であるが、イギリスでは全額が税金から支払われている。保険制度であろうが、税金であろうが、支払う方法が違うだけで、いずれにしても医療費は国民の財布から出ることに違いはない。
高齢化社会を迎え、老人の人口が増加しているので国民医療費は高くなる。毎年、年齢構成が高齢化にシフトしているので国民医療費は当然高くなる。この自然増が生じているのに、政府は国庫からの医療費を減額する政策を続けている。まさに時代の流れに逆行した政策といえる。国民医療費が赤字になっているのは、国が国民医療費の負担を削ったことが最大の原因なのである。削減した国庫負担をもどせば1兆5千億円の医療財源が確保できるのに、政府は国民の健康をどのように考えているのだろうか。国民の健康より公共事業、銀行救済の方が大事なのである。 国庫負担の減額によって家計の負担が増加することになった。この19年間で患者の自己負担と本人が負担する保険料の合計が40%から45%へと増大して家計を圧迫している。 さらに今回の医療改定では、患者の自己負担分が増えただけでなく、診療報酬の引き下げた部分を差額ベッドなどの保険外負担として患者から取れることになった。そのためますます家計負担が増すことになった。 |
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【3.国民医療の推移】
厚生省は国民医療費が平成12年には38兆円、平成22年には68兆円、平成37年には141兆円になると予測し、マスコミをとおして盛んに医療費高騰を宣伝した。このように医療費が膨大になるから医療費抑制しかないという宣伝が行われた。国民医療費の予測に関しては、この厚生省の予測しかないので、この金額は常にマスコミで取り上げられ、医療費抑制,医療費抑制の大合唱となった。 しかしよく図を見れば、平成9年時の厚生省の予測では、平成12年度の医療費を38兆円としていたのである。しかし実際には、平成12年は30兆円には届かない29.1兆円であることがすでに分かっている。このように平成12年の時点で9兆円も間違った予測を厚生省はしていたのである。もちろん間違った予測は訂正されず、医療費の膨大、医療費亡国論などのイメージだけが残されたままになっている。これが厚生官僚がおこなった情報操作の実態である。 厚生省の予測は平成12年の時点ですでに大きく間違っている。しかしだれも厚生省の予測を疑わず、医療費抑制の雰囲気に染まっている。またなさけないことに、日本医師会のパンフレットにも同様の予測値が使用されている。日本医師会は国民医療費が倍になっても雇用が増える。つまり医療費高騰による経済効果を宣伝しているが、間違った予測値を用いて大切な医療を論じてはいけない。最近でも、平成22年の国民医療費は68兆円になるとマスコミはさかんに訴えている。このような医療費高騰の予測値が出されれば、誰でも医療費抑制を考えるのが当然である。高齢化社会、少子化社会による医療費の高騰が心配になるが、厚生省の予測はあまりに大きな間違いである。国民を馬鹿にした数値を並べたといえる。 |
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【4.国民医療費の価値】
さらに郵便貯金などの財政投融資は365兆円である。建設投資額いわゆる公共事業費は総額85兆円で国民医療費の2倍以上になっている。欧米では建設投資額は国民医療費のだいたい半分なので、日本の予算はいかに土建業を優先させているかが分かる。公的年金は33兆円で医療費より優遇されている。パチンコ産業は30兆円、そして葬式産業は15兆円産業といわれている。このように国民医療費は高いと非難されているが、本当に高いのだろうか。ここに示したように国民医療費を他の金額と比較すると、日本の医療費は決して高い金額ではない。 国の予算や資産を、自分の家の家計に当てはめて考えてみよう。パチンコをしたいから、家を建て直したいから、預貯金を崩したくないから、りっぱなお墓を建てたいから、家族が病気になっても病院に連れていかない。このようなことはあり得ないことである。家の資産を全部なげうてば200年分の医療費になるのである。医療よりも公共事業が倍以上も優先され、年金が医療費よりも優先されているのが日本の現状である。これでよいのだろうか。 |
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【5.医療費の国際比較】
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【6.低すぎる日本の社会保障】
図6は社会保障給付費の国際比較である。各国の医療費、年金などの社会保障費をその国の国民所得と比較したものである。他の国と比較して日本の社会保障がいかに低いかが分かる。政治家は選挙のたびに福祉、福祉と口に出すが、日本の福祉のレベルは非常に低いのである。 しかもこの10年間で、先進国では日本だけが社会保障費を減額しているのである。イギリスのブレアー首相は、イギリスの医療費をこの数年間で1.5倍に増やすことを公約している。このように福祉国家という世界の流れに日本だけが逆行している。図7は、国庫から支出されている社会保障額と公共事業費を国内総生産で割った値である。日本の社会保障額は3.4%、公共事業費は6.0%である。このように日本では公共事業費が社会保障費の倍になっている。しかも公共事業が社会保障より多いのは日本だけである。イギリスでは9倍、ドイツでは7倍、フランス3倍、アメリカでさえ2.5倍、社会保障が公共事業より優先されている。では視点を変え,国民が支払った税金と社会保険料が社会保障給付としてどれだけ国民に還元されているのだろうか。日本は41.6%(図8)で、他の国に比べいかに低い還元率であるかが分かる。老人保険施設や特別養護老人ホームは、入所したくても数年待ちの状態になっている。日本は大切な国民の金を何に使っているのだろうか。 日本の公共事業費は膨大である。日本の公共事業費は日本以外のサミット6ヵ国の合計より多い(図9)のである。小泉政権は公共事業費を減らす政策を掲げ、これに反対する勢力を抵抗勢力と呼んだ。しかし国際的に非常に低いレベルの医療費を守ろうとする者までをも抵抗勢力とのラベルをはり批判したのである。そしてギリギリの低額で運営している国民医療費をさらに削減することに成功したのだった。政府は公共事業費を1割減らす方針をとったが、公共事業費を欧米並みの金額にすれば国民医療費の半額以上の16兆円を社会保障に活用できるのである。
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【7.医療従事者の過労】
日本の医療を諸外国と比較すると、日本は入院日数が極端に長いという特徴がある(表3)。日本では平均入院日数が33.5日であるが、アメリカでは7.8日である。また人口当たりのベッド数は、日本はアメリカの3倍以上である。さらに1ベッドあたりの看護婦の数はアメリカの4分の1であることが分かる。 外来の受診回数については、日本人は年間平均21回医療機関を受診している。欧米に比べて4倍以上の患者さんが通院しているのである。日本の医師1人が診察する患者数はアメリカの医師の約8倍である。日本は皆保険制度によって患者と医療機関の垣根が低いため、たくさんの患者が病院へ来る。他の国と比較すると外来、入院とも患者の数が非常に多いのが日本の特徴である。そのため患者1人当たりの単価を計算すると、日本の医療費はべらぼうに安いのである(図10)。医師や看護婦は、毎日いそがしく働いているが、非常に安い単価で働いていることになる。日本の医療費が極端に安いことから、患者にとっては日本の医療は最高といえるかもしれない。しかし医療関係者は大変忙しい状態にある。日本の医療の特徴は、このように患者さんが非常に多いのに医療従事者が少ないことである。医療にはマンパワーが必要であるが、今の日本の診療報酬体系では経営が成り立たない。そのために少ない人数で一生懸命働くことになる。アリのように忙しく働いているのに、この事情が知られていない。そのため日本の医療機関は国民から評価されないのである。これが3時間待ちの3分診療の実態である。医師の数を倍にすれば3分診療が6分診療になるが。この単純な理屈を誰も言いわない。
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【8.安すぎる技術料】
外国で盲腸の手術を受けた場合、その医療費について保険会社AIUが調べている。日本の医療費については済生会栗橋病院の本田宏先生が計算している(表6)。ニューヨークで盲腸で入院すると1日で約250万円、東京では7日入院して約40万円となる。表に示すように日本の医療がいかに安いかが分かる。このように安い医療費で医療関係者は神経をすり減らしながら働いているのである。日本においては医師の技術料はないに等しい。日本の医療に不満を持つ人が多くいるが、これだけの金額で運営しているのだから、不満が出るのは当然である。 国民の医療に対する不満の大部分は長い待ち時間と、患者への説明が不十分なことである。しかし欧米の医師の四倍以上の患者を診察している日本の医師にそれを求めるのは非現実的であり酷である。医療事故を防止する意味でも適正な医師や看護婦を確保できる医療費にすべきである。
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