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● 医学ジャーナリスト協会2月例会講演 「現場から見た医療制度改革」
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| まもなく医療法改正が国会を通過しようとしている。表1はOECDのデータを基に、医療法改正の理論的な根拠として厚生労働省が使用しているもので、日本の病院の在院日数が長く、病床数が異常に多いという見解を説明するのに使われ、いまや日本の病院の効率の悪さ?を示す証拠として日本中が信じており疑う人はいない。一部の医療関係者の間ではこの表の解釈に誤認があると指摘されており、厚労省はすでに修正したと思っていたが、まだ誤認の認識はないようである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表1:医療供給体制の各国比較(2003年)
日本:全病院の病床、ドイツ:急性期病床、精神病床、予防治療施設、及びリハビリ施設の病床(ナーシングホームの病床を除く)、フランス:急性期病床、長期病床、精神病床、その他の病床、イギリス:NHSの全病床(長期病床を除く)、アメリカ:AHAに登録されている全病院の病床。 |
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| この表から導かれている厚生労働省の見解は、日本の病床は国際比較において極端に多く、医療従事者の配分も悪く、役割が分化していないために非常に効率が悪いというものである。しかしこの表をよくみると不思議なところがある。ほかの国は病床数が次第に少なくなっていくのに日本だけは高いレベルにありこれに連動していないこと、病床数が多いと言われるのに日本のほうが病床あたりの医師数や看護師数が極端に少ないこと、にもかかわらず人口当たりにすると医療スタッフの数はどこの国も同じようになってしまうなどである。厚生労働省や国立保健医療科学院のコメントにも「世界水準から大きく外れる日本の医療」というが、その理由は明らかでない。 医療を担当するものとしてなるほどそういうものかと思い、医療費削減には在院日数の短縮と病床数の削減しかないと思って努力してきた。しかし釈然としないのは、診療技術はアメリカに近くなっているし、同じ人間を扱っていて自然治癒に任せなければならない病気までも、アメリカの在院日数がなぜこうまで短いのが理解できなかった。今回アメリカの病院とナーシングホームの関係を調べているうちに、このOECDのデータのなぞが氷解したので報告したい。 |
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| 【アメリカのホスピタルと日本の病院は別物】 日本の病床は大まかに言って一般病床と療養病床に分かれており、アメリカはhospitalとnursing home とで構成される。日本の急性期は一般病院が行っているが、亜急性期の役割も同時に果たし、慢性期は療養型病院に引き継がれる。アメリカのhospitalは急性期に特化し日本のICUのようなものだとよくいわれる。慢性期はnursing home となるが、同時に亜急性期の役割も果たしているようである。日本の療養型病院には医師が配備されていて病院と呼ばれているが、nursing homeには所属の医師はなく、ここでの医療は開業の医師で行われるので病床数にはカウントされていない。 |
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| 【日本は長期療養病床までカウントし、米国は急性期病床だけをカウントしている】 OECDのデータ(表1)で日米の病床数を比較すると、日本の病床は人口千人あたり14.3床、アメリカでは3.3床である。確かに4倍強の差があるが、厚生労働省の解説では日本は病院と称されるすべてのベッド数(急性、亜急性、療養、精神を含む)をカウントしており、アメリカのデータは急性期に特化しているhospitalだけの数である。ここにデータ解釈の落とし穴がある。 |
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| 【急性期から慢性期までの病床総数に日米格差はない】 表2:医療提供施設別病床数日米比較
アメリカ病院協会「病院統計2003年」、健康とヒューマンサービス調査1999 アメリカの人口(外務省)より計算。 |
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| 表2は病床の内容を分類してそれぞれの日米格差を調べたものである。日本では人口千人あたり、一般病床7.1床、療養病床2.7床、精神病床2.8床、結核病床0.1床となり、合計すると12.8床となる。アメリカは短期入院病床3.1床、長期入院病床0.1床、精神病床0.3床で、おそらくこれはOECDのデータ3.3床に相当する。アメリカでは亜急性期以後をnursing homeが担当しており、人工呼吸器をつけた人を収容したり、終末期にも利用されている。ちなみにここで死を迎える人は全死亡者の19%といわれ、日本の療養病床のイメージと重なる。この病床数はOECDのデータには含まれていないので、別な資料により調べたものを表2に示した。適当な発表がなかったので1999年のデータに頼るしかないが、その時期でもすでに人口千人当たり6.8床であった。 入院を要する病人の流れは、日本では一般病床→療養病床になり、アメリカでは短期入院病床→nursing homeとなる。実際病人がたどる経路から考え、急性期と慢性期をあわせた病床数は日本9.8、アメリカ9.9となり格差は存在しない。 |
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| 【人の死亡場所は日本では病院、アメリカではhospitalとnursing home】 表3はnursing homeの機能を調べる目的で、人々がどこで死を迎えるかを日米間で比較したものである。日本では81.2%の人が療養型も含めて病院・診療所で死亡しているのに対して、アメリカの医療機関での死亡は56%、医療機関にカウントされないnursing home での死亡は19%である。両者を合計すると75%になり、日本の病院・診療所での死亡とほぼ似通った数字となる。 |
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表3:死亡場所の日米比較
アメリカ:CDC−National Center for Health Statistics 1998 Fact Sheet |
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| つまり病床を急性期や慢性期、また終末期に病人が使用するベッド数と考える限り、日本の病床数がアメリカの水準から大きく外れていて極端に多いという結論は誤りであり、医療体制全体としては両者の間には量的な差がないという結論が導き出される。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 【病床の認識が違うから病床あたりの看護師数の日米比較は意味がない】 次に看護体制であるが、OECDの比較表(表1)で、アメリカの病床あたりの看護師数は日本の4倍もいるという不思議な結果になっている。しかし、急性期に特化して数が少ないアメリカの病床数と、急性期だけでなく慢性期も精神病床も含み計算上約4倍になる日本の病床数を同じとみて、分母として使うのであれば、病床あたりの看護師数に4倍の差がでることは当然である。 この4倍格差は医療の質の差だという意見があるが、現実的にはどうであろうか、日本の一般的な看護師の病床配分は、50床の病棟で約25人、これに格差を当てはめると、日本の4倍の看護師が配置されるアメリカでは、50床の病棟になんと100人の看護師がいることになり、日本のICU10床に25人の看護師が配属されるとすると、アメリカのICUには10床に100人がひしめいていることになる。つまりこの看護師数の差は実際の診療からはかけ離れた数字で、病床数解釈の誤解に基づいていると考えたほうが納得しやすい。 |
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| 【架空の数字で国の病床数を決めることが政策の失敗を招く】 以上がOECDのデータの読み違えの事実があったことの証明である。それでも多くの官僚や研究者は、日本は在院日数が長いという。かつて日本は、手術を受けた人は抜糸するまで入院し、ものが食べられるようになってから、また歩けるようになってから家庭に返すというやり方だった。在院日数を少なくするために、抜糸は外来で、食べられなくても在宅で、また痛みがあるうちでも強い痛み止めを飲んでもらって在宅というようにサービスが改善?されつつある。在院日数の短縮は病人の苦痛と、多忙になった医療従事者の汗と努力により着々と進んでいる。臨床現場での在院日数を、誤認がもたらした架空の在院日数と一緒にしないでもらいたいと思う。 医療法改定で療養病床の廃止がまもなく決まるが、ナーシングホームどころか、もっと医療のサポートの低い収容施設の整備もないまま病床削減が行われれば、アメリカの半分とも言われる低い医療費支出の中で、高齢者の行き場所がなくなる悲劇が加速されることが心配である。根拠のないデータの解釈で、政策が決定されることは好ましくない。事実の認識にあたって、行政に作意がなく、謙虚であり、事実に基づいていることが、信頼される国家運営をもたらすからである。もし力及ばずこのまま法案が通ったとしても、この理論の誤りがもたらす結果が明らかになる日まで、事実は検証され続けなければならない。 |
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