医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

第31回 坂出市立病院の病院改革 < 第31回 〜 > 第33回 日本の病院の看護配置はこれでよいのか

講演会

●第32回医療制度研究会講演会講演要旨

「抗がん剤治療(化学療法)のリスク管理」


国立がんセンター中央病院 呼吸器 内科  山本 昇先生
◇ はじめに
 「化学療法のリスク管理」の話を医療事故防止のためのリスクマネージメントとして考えると抽象的なので、実際に国立がんセンターの抗がん剤治療の現場で気をつけている基本事項について話をします。私は基本的な注意事項をまもることがリスク低減に役立つと考えており、「化学療法のリスク」は投薬や注射のミスばかりでなく、結果的に「患者さんの不利益」になる予想外の出来事全てを含むと思っています。抗がん剤は投与しているが十分な治療効果が得られていないことや、理解・認識・説明不足に基づく患者側の医療不信なども同じリスクと考えています。それを管理することは難しいのですが、一言で言えば、少しでも安全に、安心して、納得して治療を受けていただき、その上に有効性を確保するということになるかと思います。

◇ リスク軽減に重要なことは化学療法の適応と限界を知ること
  治療(化学療法)の適応と限界をしっかり理解するにはEBM (evidence based medicine)の裏づけがなければなりません。その上に医療提供者の経験と、患者さんとスタッフ、あるいはスタッフ同士の信頼関係、受ける人個人の認識やインフラ整備も重要になります。

◇ 化学療法は治療前に行う評価が大切
  化学療法のリスクは治療が終わった後に生じ、おきてしまったときには取り返しがききません。したがって治療前の評価をしっかり行うことが重要です。化学療法により期待できる効果は疾患によっても、受ける側の状態によっても異なります。

◇ 治療効果は疾患により異なるから戦略も疾患により異なる
  病気の種類により期待できる効果は異なります。期待できる効果により治療目標が変わります。治癒を目的にするか、延命だけを期待するのか、腫瘍縮小による症状緩和などQOL改善を目的とするのか、治療の目標をはっきりさせる必要があります。そして患者さんに治療の目標がどこにあるのかをはっきりお話しすることも重要です。期待できる効果は、治癒が期待できるものから、効果がないものまで、四つの群に分けて考えることが出来ます。

◇ 化学療法の効果に関する4つの分類
A群: 治癒が期待できるもの。急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(中・高悪性度)、慢性骨髄性白血病、精巣腫瘍、絨毛がんなどで、完全治癒が期待できる疾患です。
B群: 延命が期待できるもの。乳がん、卵巣がん、小細胞肺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫(低悪性度)、骨肉腫、前立腺がんなどはがん薬物療法の有効性はあるが、治癒をもたらすことは難しいものがこの群に入ります。
C群: 症状の緩和が期待でき、ある程度の延命は得られるが大きなインパクトは無いもの。軟部組織腫瘍、頭頸部がん、食道がん、子宮頸がん、非小細胞肺がん、胃がん、大腸がん、膀胱がんなどで、この群には頻度が高い病気がおおいのですが、単独では治癒が得られず、抗がん剤治療は治癒ではなく延命を目標としたものとなります。このところは患者さんによく説明して理解してもらっておくことが重要です。
D群: 効果の期待が少ないもの。悪性黒色腫、膵臓がん、肝臓がん、脳腫瘍、腎がん、甲状腺がんなどがあります。これらはほとんど効果が無く、治療を行っている先生方からは「これでも結構頑張っている」とご指摘を受けますが、十分な成績ではありません。がんセンターではこれらの疾患の治療は効果があまりないという理解のうえでやることもありますが、現状はきびしく制限がかかります。

◇ 患者さんの要因評価で重要なのはPS
  患者さんの要因評価で重要なのは、PSが良好であることです。化学療法の適応は一般的にはPS 0, 1, 2で、患者さんは病気になる前とほぼ同じ状態、一日のうちに半分以上はベッドから起きているというのが目安だとおもいます。PS 3以上つまり、一日のうち50%以上をベッド上で過ごす人でも適応となるのは、A, B群、乳がん、卵巣がん、リンパ腫などで、乳がんの骨転移で動けない人でも元気に歩けるようになります。PSが悪いと副作用が気になりますが、それを上回る治療効果が得られます。肺がん、大腸がん、胃がんなどC、D群の疾患はPSが悪いと適応になることはありませんし、C, D群に分類される疾患のPS不良例は予後不良で、副作用も増強する傾向があり、治療効果も期待できません。
  高齢者では、副作用が増強する傾向にありますが、バラツキも大きく、実際に何歳までという厳密な基準はないので、我々のところでは複数の医師が議論して決めています。海外の臨床試験では、年齢の上限は設定されていません。これは症例数を確保するという目的もありますが、一般的には高齢になるほど適応は少なくなります。年齢よりも臓器機能やPSの方が重要な判断材料となります。

◇ 臓器機能と体重減少その他の治療前評価をする
  治療前患者側の要因評価で重要なのは、副作用に耐えられるかということに尽きます。骨髄機能(白血球、ヘモグロビン、血小板)、肝・腎・心・肺機能、臓器機能が低下している場合は、副作用が強く出やすいのです。栄養状態もある程度考えます。経口摂取量、低アルブミン血症、体重減少の有無などで評価します。「体重減少あり」は「予後不良」の場合が多いので、外来に受診したときにはかならず、何ヶ月に何キロ減少したかを詳しく聞くようにしています。低栄養状態の人は、治療の適応が少ない場合が多いが、厳密な基準が決められているわけではないので判断が難しい。
  その他治療前評価として、前治療歴も重要です。適応を検討している化学療法の段階は、First-line なのか? Second-lineなのか? Third-line? Fourth-line?ということになりますが、さすがにFourth-lineなどになると、治療効果も限られ、副作用が強く出やすく、治療の適応が少なくなる場合も増えてきます。一般的には前治療歴が多いほど、治療効果が悪く、エビデンスも少ないので、この段階の化学療法は積極的にお勧めすべきではないと考えています。
  合併症にも注意します。合併症の有無と種類によっては、治療が出来ないこともあります。胸水、腹水、心嚢水などで、ドレナージを先行する場合が多のですが、ドレーンを入れながら治療ができるのはごく限られたがん種です。その他、肺線維症、糖尿病、不整脈、心疾患、などのチェックが必要です。イッレサの副作用で肺繊維症が問題になるので注意しています。その他、肝炎(HBV, HCV)、などの考慮も必要で、精神状態不安定である場合は、治療の内容をご理解いただけないので治療が始まらないこともあります。

◇ 治療前にインフォームド・コンセントを得ておくことも重要
  化学療法を行う前に説明する項目は、病名・病状、化学療法の目的・方法、治すために行うのか、治らないまでも延命を目的にするのかをここではっきり伝えておきます。それから予想される副作用、期待される利益(効果)、コスト(事務に聞いている)、治療期間についても説明します。近頃は代替治療のことを聞かれます。また治療を受けなかったときどうなるのか、無治療のデータがあるものを話しています。最近は無治療が少なくなっているので、データが古いことも伝えています。このような説明をするのに約一時間はかかります。

◇ 治療前評価のまとめ
  化学療法の適応は疾患側の要因と患者側の要因を総合的に考えて判断する。複数の医師の意見を聞くことも重要で、がんセンターではカンファレンスで決めています。計画した治療法がカンファで覆ることもあります。適応をしっかり見極めるということに重点を置いていることがお分かりになると思います。これを見誤ると、「治療のリスク」を高めてしまうことになります。

◇ 治療方法(レジメン)はエビデンスのあるものを選ぶ
  治療を開始するまでにまず適応の有無(前述)を決めることはお話しました。それから実際に投与ということになりレジメンを決定します。レジメンはevidenceが確かなものから選んでいきます。Evidence levelが低い治療はどうする?という場面に遭遇することはよくあります。例えばEvidence levelが低いけれども、その人にはまだ使用していない抗がん剤があるというようなときです。個人的意見では実情を患者さんが理解してくれれば、ゆるされないというものでもありませんが、積極的にお勧めすべきではないと思います。
  次に薬剤選択になりますが、Evidence(内外問わず)に基づいた薬剤選択が基本です。問題点としては、適応承認の有無が重要です。稀少疾患などはどうするか?胸膜中皮腫や胸腺がんには承認薬がないのですが、実情を言えば私たちは肺がんに準じてやらざるを得ないことがあります。この場合使用するかどうかは病院側の判断になります。重篤な副作用が発現した場合の責任の所在をはっきりさせ、患者側の理解を得ていることが条件です。個人的な発想で、「これを使ってみよう」というのは避けるべきです。
<レジメン決定の実例>
  45歳、女性、非喫煙者、右肺がん(腺がん)、stage IV、肝転移、肺内転移あり、PS-1、合併症なしとします。前治療がありCBDCA+TAXOL  4コース(カルボプラチンとタキソール世界で標準的に認められている治療)で効果はPR、初回化学療法終了6ヶ月後再燃し二次化学療法として何を提示するか?という場面です。一つはCBDCA+TAXOLの再開、その他にタキソテール、イレッサなどの使用が考えられます。現時点でのevidenceで二次化学療法として有用性が証明されているのは?タキソテール(ただし海外データ)と日本では認可されていないアリムタ(本邦未発売)葉酸拮抗剤です。イレッサはどうか?非喫煙者で女性のこの患者さんには効果が期待できそうな印象ですが、タキソテールよりも先にやるかどうかが問題です。患者さんの希望は?CBDCA+TAXOLの再開も考えられる。無増悪再発期間が6ヶ月以上あれば、再投与による効果の期待あるという報告があります、ただし、卵巣がんのデータです。再開による蓄積毒性の懸念(末梢神経障害)がタキソテールにはあるが、現時点(EBMに基づけば)では、「タキソテール」、世界のデータを見ればアリムタも候補でしょうが日本ではまだ使えません。イレッサは、情報提供を行った上で、患者の希望に応じて対応します。CBDCA+TAXOL(タキソール)の再開は蓄積毒性を重要視して、お勧めできない。この段階においてもbest supportive careについては紹介すべきと思います。ただこのような時点で抗がん剤投与を行わないという方の割合は少ないと思います。

◇ 治療レジメン投与量の設定はエビデンスに基づき勝手に減量しない
  ここでもEvidenceに基づいた投与量設定が基本で、根拠のない(不必要な)減量は行わないことにしています。減らしては効果がないことが第一の理由ですが。副作用を回避する対処ができないまたは自信がないならば治療を行うべきではないと思います。減量が必要な場合は、高齢者、全身状態不良などですが、そのようなときには適応そのものに問題がある場合が多いと思います。

◇ 合併症(例:肝機能障害、腎機能障害)のある場合の注意点
  人種が違うので海外の推奨用量(evidenceがあるからといって)を踏襲できない場合があります。本邦での臨床試験結果なども参考にする必要があります。腎機能に基づく投与量修正の目安は経験的なものであり、あくまで「目安」で余り使われていない。カルボプラチン(CBDCA)に関しては糸球体のろ過量が問題で、腎機能に基づく投与量修正式があり「Calvertの式」といわれます。
腎機能に基づく投与量修正:投与量(mg/body) = 目標AUC×(GFR + 25)
注:AUC(血中濃度曲線下面積) area under the blood concentration time curve
  GFRの計算は24時間クレアチニンクレアランスまたは、コック・クロフトの式を使っている。
肝機能に基づく投与量修正の目安:抗がん剤の多くは肝代謝を受ける。肝機能に基づく投与量修正の目安は今までに多くの報告が見られるが、経験的なものが多く、あくまで「目安」程度にすぎないし、ほとんど役に立たない。
実際の投与量修正は?  1コース目  まず、full doseで投与できるか否かの「適応」を評価することにしている。そもそもfull dose で投与できない場合、PS 不良、高齢者、合併症の存在する人で前述の「C 群、D 群」のがん腫の場合は、減量より、「治療の適応」そのものがない場合も十分にあり得ます。臨床試験(プロトコール)では、あらかじめ規定されているが、この規定も経験的に作られたものです。現場の実情はリスクを考えると「薬剤の減量」よりも「治療レジメンの変更」になることが多いのですが、これにもevidence がほとんどなく、多くは経験的な判断によります。

◇ 2コース目以降のレジメン注意点その他
  2コース目は1コースの副作用によって判断し、減量の目安は経験的に20〜25%程度が多い(エビデンスは少ない)。臨床試験(プロトコール)では、あらかじめ規定されている。3コース目以降でさらに減量が必要な場合は治療レジメンの変更を検討するべき段階と考えています。実際に臨床試験では2回までとされることが普通です。
投与スケジュールの注意点:まずは基本的なスケジュールで試みますが、合併症を有する人の対処は「投与量減量」が基本でスケジュールは変更しません。変更する場合は副作用発現の程度によって検討され、実際は2コース目を始める日を遅らせることで対処します。投与間隔の延長(投与開始延期)で対応することになります。問題点として適応承認が得られていない場合の投与スケジュールはどうするか?例えば、タキソール毎週投与法(weekly TAXOL)が白血球減少が少ないので日常臨床でも多く行われていますが、実際には日本ではこの投与法は認められていない。病院側の判断と本人の理解が必要で、重篤な副作用が発現した場合の責任の所在について、御本人の理解を得ておく必要があります。

◇ 化学療法の現場のリスク管理に重要なこと
  薬剤準備におけるリスク管理は、指示(オーダー)が正確か?指示は正確に看護師に伝わっているかを確認すること、薬剤調製、感染対策、点滴ライン準備などがあり、患者さんに生じるリスクとしては取り違えによる点滴ミスがあります。
<治療指示における注意点>
  オーダーはレジメン名称を明記する。例:5-FU + LV 療法(わかりやすく)専門家だけが分かるような名称は避ける。使用薬剤名称を明確に指示することは重要で、特に略名(略号)を用いる場合は要注意。アドリアマイシンの略し方にはADM, DOX, ADR などさまざまなものがある。
<投与量の注意点>
  実際の指示の単位は「mg/body」でよいと思われる。薬剤の調製時にも「mg/body」の方が都合がよい。しかし、カルテなどの記録には「mg/m2」の記載が必ず必要。その時点における治療計画が反映されるのは「●●mg/m2」で、何%減量したかはmg/bodyでは分からないからです。
<投与時間その他の注意点>
  投与速度を明記しなければならない。「●●ml/hr で投与」なのか「○○hr で投与」なのか、看護師には指示が分かりにくい。他にも投与の順番が「どの薬剤から?」なのか「側管から投与?」なのかといった問題も生じます。プリミティブな問題だがこういうことを一つ一つ正確に行うことが重要と考えています。
<国立がんセンターで行われている指示の実際>
  一般指示の例として肺内科入院一般指示表を実例で示す。一般指示は細かく全部書くようになっている。発熱時、疼痛時、吐き気時、下痢・便秘などのときの指示も書いておく。簡単なものはこの指示表を使います。
<指示の確認>
  化学療法の指示は別になっていてデカドロン、腎障害の予防の点滴、蓄尿指示を1週間分書きます。PCシステムで入力するときにはレジメンオーダー画面を用いています。CDDP+CPT(小細胞肺がん)などがあり、CBDCA+Taxol 投与量の計算式も書いて看護婦さんに示しています。タキソールは不整脈が怖いので入院可能な患者さんでは1回目だけは心電図モニターをしながら行っています。
<コンピューター入力の仕組み>
  呼吸器内科で登録されているレジメンは最近では20くらいあり、小細胞肺がん用や非小細胞肺がん用などとなっています。薬はレジメンに応じて、身長と体重を入れると体表面積が自動で計算され、自動的に数値が入ります。上限値を設定しているので間違えて大量にオーダーされると、警報が出てロックされてオーダーが出来なくなります。レジメンにより治療間隔が決められており、期間の間ではオーダーが出来ないようになっています。カルボについてはカルバードの式で計算し上限を超えるとロックがかかり過剰投与がないようになっています。
<薬品の調整>
  薬剤調製は薬剤部にて行われるのが理想的ですが、現実的にはまだまだ難しい状況です。がんセンターの現状は、外来化学療法は薬剤部、病棟の場合は担当医師がミキシングをやる、通常は帽子、マスク、ガウンとフル装備でやるが、時間がないときはガウンをしないでやることもあり、現実は厳しいものがあります。感染対策の原則は「クリーンベンチ」使用ですが、薬剤部にて調製できればこの問題は解決することができますが現実的にはまだまだ難しい。
<点滴ライン準備における注意点>
  薬剤が吸着されてしまう点滴ラインもあるので、非吸着点滴ルートの必要性の確認をするようにしています。新人が来たときにこの指示は伝わりにくいので、医師のほうから間違いがないように働きかけています。
  非吸着点滴ラインの準備が必要なものはタキソール、タキソテール、エトポシドで、フィルターの必要性の確認が必要なものはタキソールです。
<患者取り違え注意>
  通常はありえないが、外来化学療法では要注意。親子で同じ治療をすることもあるが、投与量が異なるので気を使わなければならない。点滴を行う前に本人の確認が必要です。ベッドは30くらいありますが、話は隣の人に筒抜けになる。今は名前を呼んで確認をしていますがプライバシーのことがあるので今後どうなるか注視しています。
<患者さんの当日の全身状態把握>
  重要視している。臨床検査結果はもちろんだが、身体所見もとるようにしている。
<点滴ライン確保と血管外漏出>
  血管外漏出に注意(漏出性皮膚障害)漏出性皮膚障害(抗がん剤漏れ)、アドリアマイシンなどでは皮膚潰瘍になることがあるので要注意です。また短い時間に注入するので危険が大きい、アクチノマイシンD、アドリアマイシン、ダウノマイシン、エピルビシン、マイトマイシン、ビンクリスチン、タキソールなどがこれにあたり、大量に漏れると皮膚損傷を起こし、ときには皮膚移植をしなければならないこともあります。

◇ 副作用対策
  副作用対策の基本は各々の治療法の副作用を把握することです。治療継続の可否に関わる特徴的な副作用の例を上げると、イリノテカンは下痢、タキソールは末梢神経障害などです。発現時期は化学療法のスケジュールに強く関連しているので検査は時期に合わせて行います。白血球減少などはこの典型です。個々の患者におけるバラツキの存在も考慮します。年齢、全身状態、臓器機能、合併症により個人差がでます。また放射線を併用する場合、前治療がありその影響を受けている場合は副作用が強く出るのでこのことも注意が必要です。
  副作用には、御自分で分かるものとして、吐き気、倦怠感、口内炎、髪の毛が抜けるなどがあり、御自分ではわからず検査で始めてわかるものとして、骨髄抑制、貧血などがあります。出現する時期にも特徴があるのでこのことも理解しておきます。

◇ 副作用を事前によく説明しておくことがリスク回避に重要
  副作用を事前に説明をしておけば、患者さん自ら体の変調を気づいていただくことで、副作用情報を迅速に入手できリスクの回避に役立てることが出来ます。治療中問題になる副作用は、点滴漏れ(血管外漏出)、急性期副作用などで、その場合には直ちに報告が必要となります。急性期副作用には悪心、冷汗、頭痛、胸痛、腹痛、動悸、呼吸困難などがあります。

◇ 入院治療か外来治療か
  安全、安心なのは入院治療ですが、受け取り方は人により違います。入院治療継続可能な病院がうらやましいと私は思いますが、患者さんのQOLを考えれば外来治療が望ましいことも多いと思います。なかなか入院できずに4週間も待てないときは、紹介するか外来で行うことになります。実際には1コース目は入院で副作用の様子を観察する「お試し入院」で、2コース目以降で「可能な症例」は外来治療へ移行することが多く、CDDP 投与、5-FU 持続点滴などを除けば、殆どの治療は外来通院で可能です。いきなり外来治療であっても現実的には可能ですが、全例に適用するのは難しい。患者さんも医師も外来治療には不安があります。

◇   在宅での連絡体制は“まず連絡”ではなく、“対処できるか否かを考えて連絡”が基本
  治療後に生じる副作用は外来の治療では重要で、これを知らないと対処が遅れたり、患者さんが自宅でパニックになったり、当直医もこの被害を受けることになるのでよく教えておきます。ことある毎に病院へ連絡していたのではキリがないし、また大半の副作用は対処しうるものです。理由は対処できないような全身状態の悪い人に化学療法は行われないという原則によります。言い換えれば余裕を持って適応を決めることが重要だということです。
  対応ができそうにない場合は連絡してもらうしかないと思います。担当医・主治医不在の場合もあるので、病名、治療内容、治療開始日、症状を自分で説明できるように指導することも重要です。
<患者教育と連絡体制の実例>
  外来通院にて抗がん剤「タキソテール」の治療を実施、1 週間後、自宅にて白血球・好中球減少と思われる時期に38℃の発熱、この場合は病院に来るのではなく、抗生物質の内服をお願いしている。シプロキサン3〜6錠(海外では6錠/日)内服することが出来るように事前に処方しています。薬を飲んでよくなれば次回来院時に報告とし、よくならなければ来院を勧めている。48時間解熱しなければ来院し多くは入院となります。

◇ 抗がん剤療法におけるリスク対策のまとめ
  治療の適応と限界を十分理解することが重要である。Evidence based medicineが一番の根拠であるが、経験もなくてはならない。処方オーダーミス、過量投与、点滴ミスなどの実施上の安全管理、十分な副作用対策、患者への説明などが化学療法によるリスク軽減に重要です。

◇ 抗がん剤のリスク対策今後の展望は個別化
  今後化学療法のリスク軽減に貢献しうる戦略は治療の個別化ということになるとおもいます。その人の全身状態、病気に合わせて治療が選択され投与量が個別化できれば、それは効果の面ばかりでなく、リスク軽減にも重要だと考えるからです。がんに特異的なターゲットを利用した分子標的治療などは、一部のがん腫に対して実地医療においても実施されていますが、その他、当院では厚生労働省を研究母体とするPharmacogenomicsプロジェクトなども行われています。
分子標的治療:抗がん剤が作用する分子標的は現在わかっているだけでも13種類あり、これを意識した治療は適切な薬剤選択の個別化の意味で重要になっています。ホルモン療法でエストロジェン受容体陽性乳がんに対するタモキシフェンや、HER2/neu陽性乳がんに対するハーセプチン、CD20陽性リンパ腫に対するリツキサン、CMLに対するグリベック、非小細胞肺がん(将来的にはEGFR遺伝子変異を有する肺がんのみになるかも)に対するイレッサなど、すでに実地医療で行われています。
Pharmacogenomicsプロジェクト:厚生労働省を研究母体として行われているものです。抗がん剤を投与するときに、その症例のリンパ球の遺伝子解析を行い、遺伝子多形と抗がん剤の効き方や有害事象との関連を調べることにより、遺伝子解析に基づいた個別化治療の可能性を検討するものです。今年中にはその成果の一部が学会で発表されることになっています。
  私個人としては、がんセンターに赴任以来、上司の指導と同僚医師の協力の下、肝代謝機能の個体差を予測する方法の研究に取り組んでいます。コルチゾールを投与した後、尿代謝物質測定によりCYP3A4の個体差予測を行い、同酵素で代謝されるドセタキセルの投与量個別化の研究を行っています。

このページのトップへ

第31回 坂出市立病院の病院改革 < 第31回 〜 > 第33回 日本の病院の看護配置はこれでよいのか

Copyright (C) 2006 NPO Iryoseid Kenkyukai. All Rights Reserved.