講演会
●第30回医療制度研究会講演会講演要旨
「これからの日本の医療・看護海外との比較で考える」
医学ジャーナリスト協会会員 村上 紀美子先生
先生は日本看護協会で調査研究から最終は広報課まで協会の仕事をされました。10年以上前からいろいろな情報源のニュースウォッチングという形で看護の情報を集めておられましたが、数年前から海外視察を行いアメリカの在宅ケアの現状、リスクマネージメント、ニュージランドではホスピスなどを視察され、国内の病院についての勉強もされています。そういった活動の中から今回は外国の看護の話をしていただきました。◇ はじめに
アメリカの在宅ケアで日本と大きく異なることは巨大な組織が関与していることだ。サンフランシスコのサタ−という組織はvisiting nurse center といっても、職員は4万人いて、病院を26個もっており、医療機器のサプライ会社やその搬送の会社、精神病院、中間施設など多角的な福祉サービスをおこなっている。カイザーは保険加入者に医療・介護サービスを提供している会社だった。私が見てきたのを仲介してくれた会社は視察研修に関してノウハウのある国際治療研究所で、絞ったテーマで頼めば対応してくれる。皆さんも利用すると良いと思う。
◇ マネジドケアにより病院合併がおこすさまざまな問題。
マネジドケアや病院合併について、サンフランシスコとボストンの病院や大学は違和感をもって言及する人が多かった。マネジドケアは1980年代から約20年間、全米を席巻しそれまでの医療を大きく変えた。90年代後半以降はマネジドケアの功罪の検証・見直しが行われ、現在はマネジドケア以前の医療の姿とも違う、次世代のシステムの模索に入っている。
ワシントンDCでは病院の合併が進み、もともとは南と北では病院の分布に大きな差はなかったが、今は北と南に分かれていて、北地区に病院が集中し、南には病院がほとんどなくなっていた。黒人が中心の経済的に恵まれない南には病院が生き残れずに、富裕層の多い北地区の病院だけが残ったという。南の人々は普段は病院にかかれずに、救急の段階になってはじめてかかれるという状態だった。無保険者でも断らない州立病院にその人たちは収容され、医療費はメディケイド(経済弱者対象)、メディケア(高齢者対象)で支払われ州政府が負担する。病院も払えない人の負担をおこなっているようである。その額はかなりのものという。
病院の合併は、表面上はトップの合併で一見良いように見えるが中身は以前とは変わらず、6年たった今もその状態は変わらないとのことだった。ボストンにあるベスイスラエル病院とディアコネス病院も一時合併したが、今は別々の病院として連携する形になっている。その件については後述する。
このような合併で、マサチューセッツ州全体では100あった病院が70になった。合併する病院の選び方は、同じ設置主体など似たもの同士でなく、経費の高い病院と貧しい人向けの病院という具合に、性格の違う病院を合併してコストダウンをねらうなど、あえて葛藤を引き起こす組み合わせにしている様子だ。
◇ ベスイスラエル病院とディアコネス病院の合併は失敗した。
ボストンのベスイスラエル病院は、世界から医療関係者、ジャーナリスト、行政マンの視察・研修を受け入れ、世界をリードするマグネット病院として超有名だった。それが1996年から大規模な病院合併が行われ変質していった様子を、いろんな立場の人から聞くことができた。
当時の看護部長ジョイス・クリフオードは、企業や組織の合併は一般的には良い結果を生むことが多いと思うが、病院の合併は結果的には良くなかったと述懐する。競合する他の病院が合併で大きくなり、二つの病院の経営は難しくなっていたときの合併で、慢性期のベスイスラエルと急性期のディアコネスはお互いに短所を補えると期待していたが、補い合うことも、維持することも出来ず、財政的にも良くはならなかった。
両病院は意思決定のスタイルも異なり、「何でもみんなでいっしょに考えよう文化」で草の根的に話し合って決めるベスと、病院の意思決定はトップが決めて、「トップの意志をどのようにするかを皆が考える文化」のディアコネスとの隔たりが大きかった。合併後は「早く決定せよ」文化が支配し、「短時間でもっと良い案を出せ」というプレッシャーがかかったが、これは、病院には馴染まなかった。他のビジネスとは違って医療分野は、具合の悪い患者さんのペース第一で進めなければならないし、生活習慣を変えるには時間がかかる。それはそもそも仕事の特性だからうまくいかない。
◇ 合併はコスト削減が目的でケアの質が落ちた。
ベスイスラエルの老人看護の専門看護師だったジェニー・チェイソンは、合併の前に、コスト削減のために何をカットし、なにを残さなければいけないかを、ケアの質の観点から話し合っておくべきだった。実際は最初にカットありきだったため、ケアの質はひどいものになったし、患者を守ろうとしたナースには圧力がかかって去ることになったと述懐する。
例えば、ぜんそくの40代の入院患者にステロイドを使用すれば糖尿病の併発が予測され、併発予防のため血糖値チェックが必須なのに行われない。ケア不足の病棟を応援するフロートナースは、新しい職場で配属されたその日からいきなりその病棟の患者にあわせた専門的で的確なケアを提供することはできない。
普通は協カペアを組んであらかじめその病棟のことを掌握するシステム化を試みるが、管理者は理解せず「ナース免許があれば誰でも同じ」「補助者で良い」という考えが蔓延していった。
◇ 看護管理者の憂鬱
看護管理職員も傷ついていた。人員管理(人員削減)や財政管理で、普通のナースも行なえる雑多な用事をしなければならず、患者ケアのマネジメントに集中することができなくなった。
こうして、ケアの力や質が低下し、仕事はどんどん忙しくなり、しかも給与は何度もカットされた。「ナースの首を切らない管理者や、看護をリードしていた各分野のCNS(専門看護師)など、組織にとって重要な人を窓際に追いやり辞めさせていった。突然、警官が踏み込んで連れて行かれるという侮辱的なことさえ起きた。ベスイスラエル病院のナースたちは、プロ意識が強く自律性を重んじて労働組合を作っていなかった。「労働者の権利に関して無力だったことが、災いした」とダナ・ワインバーグは指摘する。
ワインバーグは、このプロセスを現在進行形で博士論文にまとめ、スザンヌ・ゴードン監修で『コードグリーン』という書籍を出版している。(邦訳は2004年に日本看護協会出版会から刊行)。
ケアの質は、ナースの教育背景と深く関わる。ナースの教育背景は、意思決定や社会化(Socia1ization)、医師との関係にも影響する。ベスイスラエルは大卒ナースを増やしてきており、大学院卒も多かった。もうひとつの病院は、病院付属の3年制の教育課程の出身者が主だった。ジョイス・クリフォード元看護部長が、ベスイスラエルで教育背景を大切にして大卒者を増やしていった努力は合併で崩れ去った。
病院合併はさらに6つの病院を統括する形で進み、意思決定=リーダーシップ=文化、そして情報提供、薬剤・医療機器のサプライなどなど、すべてが変り、経費削減が求められた。スタッフは辞めていき、呼び戻そうとしても、かなわなかった。
合併が始まって3年後の1999年のある日、理事会の席で、ジョイス・クリフオード看護部長は、それまでと同じスタイルで発言しようとしたとき、長年いっしょに働いた信頼するメンバーが、約30人の理事者のうち1人もいないことに気付いた。そのとき自分も辞めようと心は決まった。システムと闘うのに疲れていた。1999年に看護部長が去った後、病院グループのCEOは毎年のように交代し、2003年の今は、また各々の病院に分かれて運営されている。
ジョイス・クリフォード自身は2000年から、世界の看護リーダーのための教育コースを開発し所長を努めている。集合教育は4週間のみで、あとはインターネットで学ぶという画期的なプログラムだ(TheInstituteforNursingHea1thcare1eaaership)。患者さんのためにさまざまな専門家をつないで、職種を超えたコラボレーションを対等な関係で(イコールパートネスで)作るために、ナースがリーダーシップを発揮すること。ナースの将来性はここにあると力説する。日本がこんなひどい事態にならないよう祈るばかり。
◇ 日本における患者対看護の人数比率は極端に少ない。
日本における患者対看護者の人数比率は、ケアの質の低下が問題視されている米国の数分の一ととんでもなく少ない。患者:看護職員数を法律などで定めているのは、主要国の中で日本だけと言われていた。
海外では、雇用する職員の数は、それぞれの病院が決めていたわけだ。ところが2000年ころから米国で、看護師不足がひどくて患者ケアに影響が出たため、政治課題となり、ケアの質の低下にならないよう患者:看護職員数を規制する法律がカリフォルニア州で制定された。2003年の夏には、マサチューセッツ州も準備中だった。テキサスでは法律ではない方策がとられていた。オーストラリアでも法律が制定されている。
◇ 米国カリフォルニア州法は新たに看護師の定数を決めた。
看護婦の定数は日中も夜間もどの時間帯も看護師が実際に受け持つ患者の数で表わす。
一般内科・外科は「患者4看護師1」(最近まで6:1だったが、改善された)、救急「2:1」、精神「5:1」で、病院はすべての時間帯でこの人数比率でナースが確保できなければ、1年以内に確保するか病棟を閉鎖する。この人数基準は、州政府とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(看護学部)で、調査研究と経済的な側面から決められた。同校のスコツト看護学部長は法律になったので、病院がナースを雇い始め、看護不足の解消とケアの質の向上に役立っている」。増員の人件費はどこが負担したのか、問題にならなかったかとの問いには「各病院でちゃんと出せているのは不思議なほどだ」と茶化す。
サンフランシスコジェネラル病院は、州でも有数の精神病棟を持つが「精神科の患者さんは夜は眠っているので5:1では夜間はナースが多すぎるようにも思う」という、うらやましい感想も聞かれた。
◇ マサチューセッツ州の看護師の人員基準
「患者安全を守れるための人員基準」と言う視点でマサチューセッツ看護協会が、調査研究を行い、以下の基準での法律制定を運動中だ。もちろん、すべての時間帯でこの同じ比率であり、診療報酬への反映も目指す。一般内科・外科「患者4:看護師1」、ICU「1〜2:1」、救急「1〜3:1」、産科「1:1」、その他「5:1」。ただ、ベスイスラエル病院やマサチューセッツジェネラル病院などは、すでに必要十分な人員を擁しているため「法律化されると、かえって切り下げになる」との懸念も表明していた。でも「法律は最低の基準だから、法律がどう決まってもこの病院に必要なナース数を置く」と意気軒昂だ。こういう病院は、患者の重症度とケアの必要度を加味した独自の人員算定方法を持っていたり、コンピュータソフト(良く使われるのはMADICUSソフト)を導入している。
◇ 職員の力量形成プログラム
同じ1人のナースでも、知識だけで仕事も人生経験も浅い人と、知識の上にスキルが身についたベテランでは働きが大いに違うのはどの分野でも同じである。
受け持ち患者が多くなると若いナースにとって大きな負担感となり離職が増える。日本と同様医療安全が看護管理上の重大な課題であるので、マサチューセッツとサンフランシスコで訪問した病院では、ナースの若いときのスキルアップからキャリアに応じて順次行う段階まで、的確な臨床判断力を身につけ良いケアができるように研修プログラムが行なわれている。また、スキルが身についたベテランナースの定着サポートにも力を入れている。スタッフに長く働いてもらうため、個人生活と職業生活を両立するように、勤務時間への個人の希望をすべて入れ込んだ勤務を組んでいた。人によって1日の勤務は4時間〜12時間と幅があり、週のうち勤務する曜日や時間帯も希望どおり。その上で年1回、職務満足度を調査するという。
「このような勤務時間管理は大変な労力ではないか」とマサチューセッツジェネラル病院の病棟師長に問うと、「その通り、大変な労力。でもスタッフの希望はすべてかなえる。そのお陰で、私の病棟の62人のスタッフの3分の2は15年以上。私自身は勤続28年」と誇らしげだった。日本では、若い人の研修にはどの病院も大きな労力を注いでいるが、そうやって育てたベテランナースの定着策や活用には、まだまだ改善の余地があると感じた。
◇ テキサス州”マグネットホスピタル”認定の条件
2004年10月にテキサス大学ヘルスサイエンスセンターで4日間の短期セミナーで学んだ折に、テキサスメディカルセンターの主要病院の”医療安全''や”医療の質向上”部門の責任者から、事情を聞くことができた。
メモリアルハーマン病院は入院日数平均5日レベル、病棟は14棟、約7百床(小児143床、成人545床)に、ナース1800人、一般内科・外科日勤「患者5:看護師1」夜勤「患者6:看護師1」+「患者12:看護助手1」、lCU「患者2:看護師1」、開胸手術後などは「患者1:看護師2」実際には、患者の状況によりスタッフの状況は変動するが、それでもこの人員をコンスタントに維持するには、職員が部署間で臨機応変に応援に出たり受け入れたりが頻繁にあるようだ。違う部署に急に入って動く難しさへの対策として、組織のポリシーや業務基準や手順や作業環境、必要な薬剤・物品などを、共通のものに標準化し、それを明確に示すことが、重要と強調されていた。
メソジスト、セントルーカス、MDアンダーソンなど各病院も同様の配置状況。日勤を患者4:看護師1にするよう運動中」という発言もあった。テキサスでは、患者対看護師数の基準は、法的な強制ではない。栄誉ある賞として良心的な病院が目指す“マグネットホスピタル”の認定を受けるための条件の中に、愚者対看護師数の基準が定められており、その認定を受けたいがために守られている。アメリカ看護認定協会ANCCという組織が全米の病院を認定し権威を持っていた。
またテキサス州の保健省でも、職員配置の効率性と患者のアウトカムの関連について分析して最適の人数を割り出す動きが進んでいる。患者数に対して職員の数が足りないときなど、組織内で改善への訴えや活動をして、それでも改善されないときには、外部機関に訴えることができる。訴えがあると、その組織の関係の責任者が呼ばれ改善を勧告される。職場を安全にという趣旨で、Safe
Harbor安全の港と名づけられ、組織内で解決できない問題に対処する。解雇されたとか、組織内で活動したことで不当な扱いが持ち込まれる。
◇ 日本の看護体制はアメリカのナースからみれば信じられないほど人手が少ない。
日本の患者対看護師数を質問されることがあり、日本の状況を説明すると、「到底信じられない!!!」と言う反応が返ってきて、改めて日本のおかしさに気づかされるシーンが何度かあった。テキサス大学でのセミナーでも、メモリアルハーマン病院の講師(医療の質向上の担当)は唖然として「でも、その状況では、ナースはやっていけなくて辞めていきませんか」と不思議そうな質問。そのとおりのことが日本の病院で毎年3月31日と4月1日に起きていて、その日いっせいに多人数が交代することを話したときは、「それでよくやってるわね」と言いたげに首をすくめるだけでコメントはもう返ってこなかった。日本では年中行事のように、年度替りの人が交代する数ヶ月間、看護師は落ち着いた安全なケアができないと嘆きながら張り詰めて過ごし、努力が足りない力が足りないと考えていること自体が大きな問題と痛感した。
◇ アメリカの場合退職者の補充は年度末ではなく随時行われる。
アメリカではスタッフが辞めたときに随時採用するので、新人は1人か2人。新人指導は主任が担当するそうだ。スタッフナースは患者ケアに全力を尽くすもので、そのチームで業務を行いながら指導をしなければならない。受け入れることができる新人の数には自ずと限界がありそれ以上は不可能という、いわれてみれば至極当然のことだった。
オーストラリアのビクトリア州でも、看護師:患者比率が法制化され、いったん離職していたナース5000人が現場に戻ったという。(日本看護協会出版会[NarsingToday]の、スザンヌ・ゴードン氏の連載から)。
◇ 日本の現状
日本の患者:看護者をみると、実質的な人数比率は、米国の数分の一と、とんでもなく少ない。
これに関してはまず、患者:看護職員数の数え方のトリックに、注意が必要だ。米国では、日中も夜間もどの時間帯も、看護師が実際に受け持つ患者の数で表わす。日本では、全入院病床数:全看護師数である。日本の医療法では、一般病床では「3:1」。(2000年に4:1から50年ぶりに改正)「3:1」といえば一見、米国の基準4:1や5:1より多いようである。しかし、実際には、入院患者の1日24時間を、看護職員の勤務時間は1日8時間から16時間(週35時間から40時間)を交代でカバーするので、実質は驚くほど少なくなる。大まかに見て日中は「患者7〜8:看護師1」、夜間は「20:1」位で。夜間は「30:1」のことさえある。
ちなみに、夜間の時間帯でも「患者10人:看護師1人」を達成できる人数基準は、日本流に言うと「1.5:1」である。日本のこの少ない人数で、なぜ病院は毎日をとにもかくにもやっていけるのか?
◇ 入院日数短縮化と在宅ケア
患者に対して看護師の数が多いとか少ないということは、入院中に必要なケアの密度とかかわり、ケアの密度は入院日数の長短に深く関わる。マネジドケアの流れの中で、入院日数は、平均4〜5日まで短縮化していた。例えば手術前の検査や準備は、以前は入院してから行っていたが、今は外来で行い、手術当日に入院し、手術後数日で退院。このように、ケアの場は大きく変化して,外来や在宅に移った。「ヘルスケアは、人と人の関係の中で行われるもので、信頼関係を築くには時間がかかる」とベスイスラエル病院の複数の関係者が指摘した。
ところが入院が4〜5日では、ナースも交代するので患者の入院中の関わりが減ってしまう。信頼関係を築く時間が乏しく、ケアの内容(コンテキスト)もすっかり変わり、入院中に看護の力でできることが以前より小さくなって、ナースの価値観が変わり、満足度も下がっていると嘆く。ただし、退院日数の短縮を厳しく求めてくるHM○に対抗する動きもある。1つの病院では抵抗が難しいと、近隣のいくつかの病院がまとまって行動することもある。良いクリニシャンほど、「この患者にはもう少し入院が必要」と闘うことになるそうだ。
◇ 早期退院後の患者を支える在宅ケアシステム
入院日数が短くなったのは、医療費削減という財政的な理由からだが、早く退院させるにも対策が必要で費用もかかる。患者や家族が退院後もちゃんとやっていけるように、十分な情報提供などのサポートが以前にまして重要になり、患者さんや家族のためのラーニングセンターを病院が作っている。
マサチューセッツジェネラル病院は、ベスイスラエルを去った優秀なナースを採用して、その力を大いに活用していた。マサチューセッツジェネラル病院の看護部長は「マネジドケアを良いとは思っていないが、医療費高騰への対応は不可欠なので、うまく付き合わなければ。効率性と、ケアの質・患者のQOLのバランスをとることが、最も大きな課題と考えている」と言う。退院後は必ず訪間看護につなぐ。退院後の在宅サポートとして、必ず在宅ケア=訪問看護が紹介される。訪問看護師はホームケア団体に所属し、各病院から連絡を受けたエージェンシーの依頼で、患者さんを訪問する。
病院に在宅ケア専門の部門を置く方式は、たとえばテキサスのメモリアルハーマン病院。平均入院日数が5日、継ぎ目のないケアのために、退院時にはケースマネジメントサービスのコーディネーターが在宅ケアサービスのリストを渡して紹介する。またホームヘルスエイド、介護分野についても面倒を見る。訪問看護事業所から職員を病院に派遣し、病院にデスクを持って、退院調整にあたる方式が、カリフォルニアやミネソタではとられていた。なお、オーストラリアでは、公的保険は急性期医療に局限され、平均在院日数は4.6日。入院中に退院後の受け入れ先を決め、在宅ケアサービスを手配するために、高齢者ケアアセスメントチームが病院に出向くシステム(全国に110チーム)になっていた。
訪問看護師のジェニー・チェイソンは、かつてベスイスラエル病院の老人看護の専門看護師だった。「退院時に病気について必要な注意を理解できていない患者さんもいて、訪問すると十分な療養ができていないことがある。訪問看護で詳しく説明し、ターミナルも含めケアしている。」と病院での退院指導に苦言を呈していた。
◇ これからの道−人員と入院日数と安全な体制整備へ。
というわけで、米国は「極端に短い入院日数と、多いスタッフ数」の道を行く。翻って、我が日本は「極端に長い入院日数と、少ないスタッフ数」が特徴である。ここに、日数とスタッフ数の、デリケートな関係が見えてくる。日本の平均入院日数は、数年前までは30日・40日だったものが、近年は20日前後にまで短縮してきた。入院日数が長ければ、入院中にゆっくり治療やケアが行なえ、患者さんを把握する期間も長い。1病棟にたくさん患者がいても、手術前後や急変など濃厚なケアが必要な患者の数は少ないため、スタッフが少なくても、なんとかやって来られたのだ。厚労省は、入院日数を、17日にとか14日にと短縮誘導し、病院では日帰りや1泊手術の試みが乳がんなどでも広がっている。しかしスタッフ数は、看護職員はもちろん、医師も、薬剤師などコメデイカル職種も旧態のまま。医師数は、法定人数を下回ることが当然視されるという異状事態が続いている。つまり「日数」は急ピッチで短縮化しているのに「スタッフ数」は変化に追いついていっていない。
このような体制不備の状況で、医療技術の進歩、安全対策、患者中心のサービス向上に取り組む現場の緊張感がますます高くなり、安全確保さえ危機に瀕し、スタッフはストレスで辞めていく所以である。
◇ 日本における在院日数短縮
安全で質の高い医療を求めるなら、そのための体制を整備しなければならない。どの職種とも夜も昼もスタッフ数を確保し、安全な医療が行なえる環境整備も不可欠だ。これまでの、何でもどうぞの百貨店・大食堂方式医療施設では、多種類の医療を同時平行に行うからたくさんの仕事の作業手順、専門知識が混在し、技術が散漫になり、ノウハウが広く浅くなり、個人の力量も形成しずらい。作業の混線、多様なテクニツクを各患者ごとにさばく、医療ミスもおきやすい環境といえる。ビジネスの世界で「選択と集中」とよく言われるが、これからの日本の医療機関・在宅ケア組織が得意分野を選択見極めることが生きる道ではないかと考える。地域の利用者の予測(顧客二一ズ)、今まで培った得意分野を(自杜の強み)、協働できる事業体(協同他社)の3つの要素をもとに、自施設で取り組む専門性強化の方向性、捨てる分野の線引きを見極める「選択」。「選択」した分野に「集中」して、人・もの・金・情報などの資源を投入する。いわば専門店方式で、より深くスキルを磨き、陣容を整えることで症例もあつまり、さらに技術が洗練され習熟することで、より安全性と確実性が向上する結果を期待できよう。そしてさまざまな得意分野を持つ医療機関・在宅ケア機関同士がネットワークすることで、全体として多様なニーズに対応していくことができるのではないかと考えている。
付記:米国のヘルスケアシステムが大規模であることに、驚かされた。いずれもこの20年間に繰り返された大規模病院合併により構築されたと推測される。たとえばメモリアルハーマンヘルスケアシステムは、テキサス州南部に、急性期施設が9病院、慢性期管理施設が3病院、専門施設が5つ(継続ケア、ケアつき住宅、健康センター、予防・回復センター)、地域関連機関22(ホスピス、地域病院、保健センターなど)を有する。このヘルスケアシステムの中核病院が、メモリアルハーマン病院で、テキサスメディカルセンターに位置し、MDアンダーソンがんセンターや、セントルーカス、メソジスト病院などそうそうたる病院とのライバル関係でしのぎを削っている。カリフォルニアでは、サターヘルスケアシステム、カイザーヘルスケアシステムなどが同様の規模で活動している。
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