医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

第24回 アメリカの家庭医学教育 < 第21回 〜 第30回 > 第26回 未然防止・医療と製造業の間で

講演会

●第25回医療制度研究会講演会講演要旨

「特定医療機関におけるDPC(包括医療制度)の経験」


群馬大学医学部医療情報部教授 酒巻 哲夫 先生
◇ はじめに
  自分の病院の特徴はなにか、優れた点、標準的な点、劣った部分を考えてみて下さい。それはどういう客観性にもとづくか答えられるでしょうか。明確なデータが無いことに気がつくはずです。今日は、DPCの話をさせていただきますが、DPCは何が目的なのかと考えると、医療費抑制、在院日数短縮、医療の質の向上、病院の差別化という考えが浮かびます。今日出席の皆さんはどうでしょうか、医療費抑制と在院日数短縮は理解されていますが、他の2点はあまりぴんと来ないという感想だと思います。医療の質と病院の独自性は、自分の病院のデータを全体の中でみることができる時に、初めて言えるようになります。今日の話の中でDPCをそのような視点からも見ていただけるようになれば、と思っています。

◇ 医療制度の問題点
  医療制度と言うと、病院は赤字、保険者も赤字、患者と国民の負担が増大ということになっています。なぜ、この3者がみな赤字になってしまうのでしょうか。
  診療報酬の決まりを書いた緑本は、はじめはB5版で600ページでしたが、改訂に次ぐ改訂で、20年後にはB5版2000ページになってしまいました。これは疾患や処置が増えたことにもよりますが、適応ルールが複雑化したことが原因です。出来高払い制度が限界に来ていることを示しています。また在院日数は、世界の水準では1960年代が20〜30日であり、その後、欧米諸国はベッド数と在院日数を減らしてきましたが、日本ではベッド数が増加するという逆の方向になりました。このところ在院日数だけは減っていますがベッドは減っていません。これらは、日本と欧米の医療制度の違いからくるものと言って良いでしょう。

◇ 医療制度改革における包括診療の試み
  ひとつの対策として、日本に欧米の包括医療制度がなじむかという観点から国立病院を対象にDRGが試行され、この10月31日で5年間の試行期間が終了します。このDRGはアメリカのものを倣ったもので、200あまりの疾患群に対して一入院あたりの定額払いで行われました。参加した国立病院のうち4人の院長が9月の中医協に出席して試行の結果の報告をしました。病院側として、在院日数は短縮し、そのためにクリニカルパスは有効、医療の質は確保できた。職員はおおむね歓迎していて続行を期待しているというものでした。

◇ DPCの施行のいきさつ
  DPCは厚生労働省の研究班が提案したものを検討し、中医協が大学病院での施行が可能という判断があって開始されました。平成13年度末までに提案側と施行側にさまざまな議論があり、大学病院としては制度が充分に明示されていない事や包括制度に対する不安から反対の声がありましたが、国の方針に従うということで、平成14年7月から4ヶ月間特定機能病院に入院する患者のすべての診療データを厚労省に提出し、26万7千人のデータが集まりました。このデータをもとに詳細設計が行われ、運用に関係するヒアリングが行われ、14年度末に中医協が国に実施することを答申し、15年度から施行され現在に至っています。

◇ DPCは診断分類ごとに支払額を決める制度
  DPCは診断群別の分類に従って値段を決めるやりかたで、疾患群ごとに支払われる報酬に在院日数と病院の機能評価の要素を加味したところに特徴があります。DPCで支払われる金額には包括評価部分と出来高算定部分があり、この両者を足したものが請求点数となります。包括部分は、一入院にひとつの診断群病名(DPC)しか当てられず、合併症があってもひとつの副病名しか評価されないことになっています。値段は一日について包括でいくらと決まっていて在院日数により3段階の逓減が設けられています。

◇ 包括部分は参加医療機関のデータを集めて決められた
  包括部分の点数の決め方は、全医療機関の一日あたりの平均請求額である基礎償還点数に診断群特有の係数と、医療機関機能評価係数を掛けて計算されます。
包括点数=(1)基礎償還点数×(2)診断群特有の係数×(3)医療機関別係数
(1) 基礎償還点数は27万人分のデータから1日の平均請求額を計算し、今回は2757点でした。
(2) 診断群別の係数は2500ある診断群それぞれに請求された額の平均をとり、基礎償還点数との比率で診断群特有のものとして計算されて決められます。すくないものでは0.6、最大で3.3となっています。
(3) 医療機関別係数は前年の実績に応じて計算されています。医療機関別係数は医療機関により診療内容が異なる点を配慮した調整係数と、病院の施設基準などの加算から割り出した評価係数から成り立っています。群大の医療機関別係数は最初厚労省が提示したものでは1.0596であり、この中に紹介率管理加算の評価分0.0257が含まれていましたが、その後診療録管理加算が取れたので、現在はそれが加算され1.0601になっています。
◇ 包括に含まれる診療行為
  包括に含まれるものは入院基本料、検査、画像、投薬、注射、1000点未満の処置が含まれ、出来高の部分は手術、麻酔、リハビリテーション、放射線治療、内視鏡と心臓カテーテル検査、1000点以上の処置などです。
Q:手術はそれだけで何点ということになるのか?
A:その通りです。術中に使われるごく限られた薬剤などは請求できるが、術前術後の薬剤は請求できないようになっている。麻酔は出来高に含まれる。

◇ 在院日数による逓減は診断群ごとに算定され日数が異なる
  包括される部分の在院日数による逓減は3段階で、基準となる期間より短ければ15%増、長ければ15%減になります。基準になる在院日数は疾患によるばらつきを考えて、診断群別の平均値が当てられています。この特定入院期間を過ぎた症例には、診断群の全国平均在院日数の標準偏差値の2倍(2SD)を超える場合は出来高の算定で請求することになっています。したがって長期入院者は2種類のレセプトを提出することになります。DPCでは疾患群ごとにそれぞれ入院期間と一日あたりの点数が決まっているので、診断群によって高さ(1日当りの点数)も幅(逓減期間の日数)も異なるということになります。逓減期間は統計学的に25%の患者が退院する25パーセンタイル、平均在院日数、および2SDで区切られています。診断群分類の基本的な考え方は、同じ病名でも症例によって行われる手術や検査や重症度によって差があり、それをひとくくりの群とするためにケースミックスという考えを入れ、診療経費も含めて包括的評価するという考えに基づくものです。
Q:入院が長くなると出来高になるのはなぜか?
A:特定機能病院の間では在院日数のばらつきがひどく、長いところでは30日を越えるところもあった。一律の入院期間ではくくれない部分があり、このための調整的措置はだと思う。

◇ DPCは2552に分類されている
  具体的には16の大きな疾患カテゴリー(MDC)がありその中に575の疾患が含まれています。ケースミックスとして分類すると全部で2552となりますが、今回はその中から1862を請求対象としています。そして、病名はその入院でもっとも医療資源の消費と関連の深いものをひとつだけ付けるということになっていて、透析中の狭心症でもひとつの病名しか付けられません。

◇ DPC疾患群のコードの付け方
  DPCコードは、全部で14桁からなっています。未破裂の動脈瘤のクリッピング手術を行う患者を例とすると、まずMDC1である脳神経疾患の中から、ICD10で未破裂動脈瘤を選び、コードのはじめの6桁が決まります。Kコードで手術の分類が決まり、さらにリハビリの有無、そのほか有効な副病名として糖尿病などを入れると14桁のDPCコードに当たるようになっています。このコードの決定には樹型図を利用する方法もあります。同じ疾患でも手術や処置、重症度により逓減期間や1日の点数が大きく変わっていることに注目してください。

◇ 医事課と診療部のコミュニケーションが重要になる
  医事課は診療側と密接なコンタクトがないと正しい請求が出来ないのは、もちろんですが、診療側も医事課とのコンタクトが重要になり、コストと質の考えが無いとやっていけなくなると思います。
  検査、放射線診断、薬剤、などの内容はレセプトに乗ってきません。これらの中央部分は、自らの価値を新たに作り出さなければならないし、管理者は病院がどの様な状態にあるのかということをきちんとフィードバックしなければならないとおもいます。
Q:看護が点数の中に現れないが、夜勤加算などは無いのか?
A:看護師の労働はホスピタルフィーの中に入っていることになっているので包括に含まれます。人件費部分に抑制がかかり、質の低下が起きるようであれば当然問題になる点です。今回の場合は特定機能病院なので、2:1は確保されているということで最低のラインとしては問題にされていません。患者の看護度別にDPCの評価を考えることも検討に入っていますが包括として扱われることは変わらないと思う。
◇ 病院の特徴がDPCによって明らかになる
  最初に病院の特徴を示すデータがあるかという質問をしました。いままではそれぞれの病院でデータを持っていても隣の病院と比較することは不可能でした。今回のDPCでは、限られたデータですがこの比較が可能になっています。平均在院日数の比較もできますし、医療機関別係数と診療経費は相関関係にあるので病院ごとの経費の比較も可能です。係数が高いことは一概に良いということは言えないとも思います。DPC毎の結果が公開されるようになれば、かかる費用の比較が出来るので、結果が同じならば安いところが選ばれることもあると思います。いくつかのデータを統合すると、一日あたりの点数は研修医が多くいる病院のほうが大きいこともわかります。安くて質の良い医療を提供するには研修医の教育が重要だということになります。
  厚労省は疾患別の平均在院日数を出しているので、同じ疾患ではどこの病院が短いかわかります。しかし、もっと重要なことは、このリストがある一定数以上の症例のあった病院についてのものであるという点です。このリストに載らないということは、データになるほど症例数がなかったことになるのでこれも病院評価にとっては重要な要素となるでしょう。医療の透明性、説明性に今回のDPC制度が重要となることがおわかりいただけたと思います。

◇ DPCでわかる群馬大学の特徴
  群馬大学の場合を見てみると、どこの疾患が多いか、強い疾患は何か、反対にどの疾患が少ないかなどが良くわかります。DPCになって得か損かという議論がありますが、評価の低い点に関しては診療科に特殊事情が無いかどうかなどのフィードバックをかけることができるようになったという点で大きなプラスだと思います。
  群馬大学の特徴は手術件数が多いことです。包括と出来高比率は、全国的にはで3:7ですが、群馬大学では4:6となり、手術の割合が診療報酬上でも多いことが良くわかります。しかし、原価に関しては不明であり、手術室に沢山の無駄な資源が投入されているようであれば困ります。目に見えることで検討すべき事が見えて来る。悪い事ではありません。平均在院日数は全国でも上位にあり、医療機関別係数は中くらい、ということになると東京から新幹線で来てもらっても患者さんにとっては得だということになるかもしれません。

◇ 意外に評価されない短期入院
  制度の問題点としては短期入院の評価が良くないことで、一日入院では包括に比べて2倍、二日入院では1.3倍、のコストがかかっていました。他の入院患者も含め全体で平均されると損得はないことになりますが、気にはなることです。

◇ 包括でのコストアウトライヤーの分析
  症例ごとに包括と比べてプラスマイナスを考えるとほとんどの症例は誤差範囲ですが、中には30万点のマイナス例もあります。そのような症例を見ると、合併症が起きた、手術前後の処置が多かったなどであり、高額の注射を大量に用いざるを得ないことがマイナスの要素になります。合併症を適正にコーディングに反映させないと請求額に大きな差が出ます。材料費の合理化、後発品への見直し、在院日数の短縮、パスの有効な活用、などが問題として感じます。
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Q:一般病院にいつごろ導入されると考えるか?
A:来年度は点数改正の年です。導入は困難でしょう。開始するには特定機能病院と同様にデータ集収が先行して必要です。また、一般病院の場合にはDPCとするか、DRGを導入するかという選択肢が残っている。国立病院で試行したDRGは来年の3月31日まで続けることになるかもしれないが、それ以後の続行がDRGになるか、DPCになるかが大きな分かれ目となると思う。一般病院に広く導入される場合は、病院係数の評価の仕方が難しくなると思う。平均的なものを持ってくるという選択肢も残っている。
Q:原価は検討されているのか?
A:中医協の下部組織である診療報酬調査専門組織に原価を検討するWGがある。何か出てくる可能性があるが、原価を検討すればDPCは赤字だろう。病院が赤字なのだからありうることである。
Q:DPCが一入院にひとつだけということに問題は無いか?
A:無いとはいえないが制度が複雑なので2つにすれば複雑すぎて成り立たないと思う。
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感想: 制度のデザインから見ると、平均値を基準に、質の評価を入れているので、都会型やそれなりに頑張っている施設には良い結果がもたらされ、地方で医療以外の問題を同時に背負っている施設では厳しいと感じられるように思います。同じ指標が使用でき、評価の要素が取り入れられているので、医療機関ごとの比較が可能になる利点があることは新鮮に感じました。しかし、今度の制度は序の口で、原価を元に計算されていない点、係数の操作でどうにでもなる点で、医療費抑制がいっそう効果的になることは明白です。病人に大きなしわ寄せが行かないように、また医療や福祉の労働環境が疲弊せずに継続できるように、医療を支える技術者が集団として発言し、力を持つことがますます重要になる気がします。高齢化という国の難題に忘れられようとしている社会保障をさらに深く当事者として勉強する必要を感じます。(中澤記)
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