医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

第23回 日本の医療改革のために < 第21回 〜 第30回 > 第25回 特定医療機関におけるDPC(包括医療制度)の経験

講演会

●第24回医療制度研究会講演会講演要旨

「アメリカの家庭医学教育」


トマスジェファーソン大学家庭医学助教授 神保 真人 先生
◇ 先生の御略歴
  1985年慶応医学部卆、沖縄中部病院で研修、1年間ローテート、2年目は内科の研修を受けた。かなりハードな勤務で休日は1年に2週間の休暇があるだけという研修だった。その後慶応内科教室腎臓内科に所属し、博士号を取得後フィラデルフィアの大学で家庭医学過程を終えて、ノースカロライナの僻地の診療所と契約した。これはグリーンカードが3年間の僻地診療をすれば取得できるという制度を利用したものである。僻地の診療所の勤務と思っていたら、1996年クリントンの政策が挫折して、市場原理が大幅に入ってきた年代にあったため、赴任することになっていた診療所は隣の郡の大きな医療組織に飲み込まれ、勤務状況は予想外の変化となり、おかげでクリニカルパスやメディカルディレクターや慢性疾患のマネージメントも経験することができた。その間、ノースカロライナの医療従事者を対象にした、インターネットやビデオカンファレンスや休暇中の大学実習などが組み込まれている最新式の通信教育を3年間経験することができた。フィラデルフィアに戻った今は大学の家庭医学助教授として臨床5、教育3〜4、研究1の配分で仕事をしている。医学部教育の3年目から始まるスーパーローテート中の学生と、家庭医学研修医1学年9名、3年間で27名の教育をやっている。今日の話はアメリカ東部の家庭医学教育と考えてもらいたい。

◇ 家庭医学のはじまりは1969年
  家庭医学の歴史、イギリスやオランダのGP、カナダのFPとほぼ同じである。アメリカでGPというのはスーパーローテートの期間を終えて、すぐに開業した医師のことを言っていたが、1970年代の第二次世界大戦後には数は少なく1/5程度に落ち込んでいた。その後専門分化の批判と、一人で沢山の人を見ることができる家庭医のニーズが強くなり、フィリスレポートなどの政治白書の影響で、政治主導のトップダウンと民間からの要望も出て、中西部を中心に整備が進み、1969年正式な診療科(20番目)として認められた。今は内科の次に大きい診療科となり年間200人の家庭医が輩出している。

◇ 研修の期間は3年間
  研修期間は内科、小児科、救急科などと同じで3年間。その他、扱うことが多い精神科、整形外科、皮膚科は、メジャーな科の他にローテートする。また一般的な疾患として、糖尿病、甲状腺疾患なども主な診療範囲の中に含まれる。
  1930年代は感染症の対策が主流であったが、最近ではUS preventive task forceというのがあり、EBMに基づいて一つ一つ予防の価値があるかどうかを検討して公表しており年々精度を上げている。そういった研究成果についていくのと、それを受診者に施すということを使命としている。

◇ 健康診断を日本は企業や自治体がやるがアメリカでは医師がやる。
  日本の健康診断は保健所や職場で老人は自治体など行っているが、アメリカでは医師の下で1年に一回予防のための問診や診察とカウンセリングを受ける。予防と医師は切り離されることは無い。

◇ トレーニングは外来中心で臨床心理士やソーシャルワーカーも関与する。
  外来のトレーニングに重点が置かれる。そこには行動科学の専門家であるカウンセラーやソーシャルワーカーを常勤として1人置いている。その目的は服薬のコンプライアンスに関係する保険の条件や一部負担金の問題、副作用とくにインポテンツなどの問題など、どこに着目してどうやって解決するか、コミュニケーションが大切で、それを身に付けるのも教育である。この3年間の研修は教養学を聞いている気がした。指導は診察のときのビデオを取っておいてこのとき何を考えていたなど、彼らが直接教育にかかわっている。DOS(Direct Observation)といって、診察室に研修医と一緒に、患者さんの許可をとって入ってみていて、終了してからおさらいしたり内容を追求したりするし、カリキュラムにも積極的に関与する。

◇ 診療の内容のキーワードは総合性と継続性。
  医療の内容でいくつか重要なものがあるがそのなかでも重要なのは、総合的または継続的に見ることが強調される。手技を除く部分で、病歴をつかむ能力、理学的所見を取る能力、受診者とうまく関係を持つ能力、教育する能力、医療面接そのものを治療として施す能力などは、日本では1年がかりになるところを、シニアレジデントを終わるころには習得できる。内科、小児科、ICUを研修中に回るが、集中して研修ができる利点がある反面、しばらくやっていないと経験したことを忘れてしまうことが多い、そのため継続的に週に一単位外来を受け持ち、主治医として病気や予防におとずれる人を診療することでこれを補っている。

◇ 総合性で重視される地域特性
  家庭医学は他の科の医師のように重傷者の診療はしないが、外来診療を通して主治医として地域医療に携わる。病気には地域の特色があり田舎では小児の髄膜炎は重要であるが、都会型の家庭医では小児救急、健診、糖尿病、高血圧、高脂血症などが重要になる。地域の特性に基づいた疾患を総合的に見ることが強調される。

◇ 家庭医学と産科の考え方と継続性の重視
  2年目になると研修は病棟中心から外来の比重が強くなる。家庭医学では産科が特徴的に考えられている。産科を専門に教えるスタッフが3人くらいいて、妊婦外来があり研修医が中心に妊婦の診療を行っている。受け持っている人がお産になると、指導医と受け持ちの研修医が呼ばれてお産を担当する。継続を重要視して研修が行われている。
  こうして健康診断的なことも含めて反復できる診療体系を作ることにより、継続的に主治医として診療技術を身に付けるシステムになっている。

◇ 施設で健康指導を行いそれには指導医がつきそう
  家庭医学センターでは週に2こま、指導医と研修医と学生がセットになって参加し、地域の家出した子供たちを預かっている施設を訪れて、子供たちに安全なセックスの指導をしたり、妊娠を防ぐ方法を教えたり、健康知識を指導したりしている。同じようにホームレスの人を収容する施設で同じようなかかわりをすることもやっている。

◇ 3年目の研修は将来の仕事の内容に即して選択される
  3年目は週1.5回に外来が増える。増えた外来は自分が地域医療としてこだわる領域に関する教育を受ける。例えば自分の職場となるところが地方であれば、産科やICU、新生児室などを研修する。都会型の家庭医を目指すのであれば手技的なことよりカウンセリングなどを重要視して研修する。また、研究の分野に進もうと思えば臨床疫学や、大学の教授の研究に興味があればそのプロジェクトに参加するなどである。この選択肢は柔軟に取得できるようになっている。

◇ 地方での家庭医の役割は大きい
  家庭医と内科総合医と小児総合医との比較研究がある。内科総合医と小児総合医を全員引き上げても過疎地域の数は変わりないが、家庭医を全員引き上げると過疎地域は倍になるという研究がある。

◇ 病院の変化にあわせて家庭医の考え方も変化する。
  病院医師はアメリカでは少なく、医師のほとんどは開業していて患者さんを入院させるときには自分が行ってみている。しかしマネジドケアの影響で在院日数が短くなり病院が大型ICUみたいになると、入院している人数が10人くらいだった10年前からは減ってせいぜい1~2人である。開業医が1~2人の入院者のために、車を飛ばして診療に行くこと自体に経済的なデメリットが生じている。最近ではhospitalistという医師が出てきて、病院にずっといるようになって来ている。結果的には入院コストも、在院日数も少なくなり生存率も高いのではないかといわれている。病院診療の形態は変わりつつある。家庭医の診療の80%は小児診療をしているが、産科診療をやっている医者は少なくなって20%くらいしかない。この20%は僻地の診療などで必要のある人だけがやっている。家庭医の研修において産科を重視することの見直しが今は進んでいる。

◇ 日本における総合医
  日本では、大学病院の約1/9に総合医学部がある。大病院の課題は家庭医が重視する継続という点にある。紹介重視はその点に問題を生じている。また、卒業すれば内科や小児科を標榜できる点からみると、家庭医の必要性にも疑問が残る。いずれにしても総合性と継続性のどれひとつが欠けても家庭医学は成り立たなくなることに留意しなければならない。

◇ 家庭医の概念定義
  家庭医の概念定義に関してはinstitute medicine というアメリカの医療以外の分野を含め、その年に功績のあった人々で構成される会がありその会でテーマを決めて問題を徹底的に検討することがある。近年医療過誤がテーマとして取り上げられた。そのなかで望ましい医師像として定義されたものを挙げると次のようになる。
  (1)総合的にみる、(2)access度の高い医療サービス、(3)健康増進、疾患予防、早期発見、慢性・急性疾患の管理を含む個人のニーズの大部分を担う。(4)地域と連携したパートナーシップを組む。(5)家庭と地域の脈略の中で見ていく。とされている。(1)に関して日本では医療機関へのアクセスは良いが、医師個人にかかるアクセスは必ずしも良くない。個人に対するロイヤリティーが希薄などの問題がある。(4)の連携に関しては家庭医の場合、診療上で手に負えない部分があり、専門医師に預けるという形がある。この連携が重要であり、専門医と家庭医が共同して当たる場合の疾病管理は質の高いものであることが証明されている。(5)の地域との脈略は、地域により疾患構成が異なることを重視している。日本ではリンパ腺が腫れることでHIVを直接考えないが、フィラデルフィアではこの可能性を考えなければならないというような意味である。要約すると、「私は家庭医として、あなたのすべてを見ることはできないかもしれないが、専門家と連携を取り、状況に応じた診療を、総合的かつ継続的に行い、必要な場合はバックアップも含めて、常に連絡が取れるように責任を持ちます。」ということになる。

◇ 家庭医の基本理念に基づく健康チェックガイドライン
  基本理念を人の健康スペクトラムにどう反映するかを考えて例を示す。アメリカでは健康診断を医師が行う。来院して行われる診療の中で、肥満には運動ではなく食事療法が効果あること、禁煙についてはやめたほうが良いといってやめる人は5%くらい、酒は2合くらいならばいいがそれ以上はよくないことなどのカウンセリングを行う。
1次予防として、子供の3種混合ワクチン、大人でも10年に一回は破傷風ワクチンをすすめる。50歳を超えれば年に1回インフルエンザワクチン、糖尿病があり65歳以上であれば肺炎球菌のワクチンを勧める。
2次予防として50歳以上であれば、大腸がんのスクリーニングのために、3個の便潜血を毎年一回やるか、5年に一回はS字状結腸鏡をするか、その両者を併用か、また10年に一回大腸ファイバー、5年に一回バリウムの透視を行うことをガイドラインとして勧めている。大腸がんの家族歴があれば10年前からこれを行う。
血圧に関しては数回にわたり複数項目のチェックで140/90以上であれば、6ヶ月の間は減量、減塩、オリブオイルを中心とし動物脂肪を減らした食事指導などを行う。心電図に心肥大があれば130/85で薬剤を開始するなどである。
もう少し時間がたって心筋梗塞や狭心症になることがあるが、軽ければ家庭医が、重ければ専門医がかかわる。後遺症を残せば社会復帰や在宅でのリハビリや介護のコオーディネーションをおこなうことになる。
肺がんの早期発見はスパイラルCTを含めてもまだ有効性は確認されていないが、肺がんが発見されれば腫瘍内科の評価を受けてから緩和医療につなぐことになる。この分野はナースの分野となるが、日常のコオーディネートとしての役割が存在する。
◇ 家庭医学の教育では疑問の解決という手法が取られる
  私たちが受けた疾患の教育は系統化されていて疾患を教えるのには上下関係があるので楽である。しかし実際に受診者の自覚症状から病気を診断し定義していくことは必ずしも容易ではない。症状があっても疾患がないこともまたその逆も存在する。系統だっていないし教えにくい。患者さんを前にして虫垂炎を勉強しようと考えると、病気を学ぶだけでも結構エネルギーが必要である。右下腹部痛がありリバウンドが無い場合、虫垂炎では何%くらいこの症状が出るかを考えて調べていく、虫垂炎でもかなりの症例でリバウンドが無いことがあるとわかれば、次に直腸診ではどうかと考えていく、問題に直面したらそこから勉強を始めて解決していく(prefaced learning)方法である。サッカーで左シュートに問題を感じたときにヘディングの練習から始める事はしないと同じ理由である。

◇ 頻度の大きい疾患を第一に、次に見逃してはならないもの、そして臓器の可能性へ
  実際の家庭医の診断では地域特異性を考えた頻度の高いものから疑っていく。次に頻度は低いが外すと大変になる病気、例えばマルファン症候群であったら大動脈瘤の破裂などであり、肺梗塞などもその範疇にはいる。問診の段階でほぼ8割、理学所見で2割、検査で1割が診断されるということは複数の研究で言われている。最初の問診で診断がつかない場合には、見逃しが無いために臓器の問題を考え随伴症状を考えながらさらにしぼっていく。これはsystem reviewといわれている。

◇ 外来診療で多い主訴と疾患
  外来診療で多い主訴は一位が一般健診で、咽頭頸部症状、咳、高血圧、感冒、耳の痛み、腹痛、頭痛、小児健診などがTOP10であり、疾患では高血圧が1位で一般健診、上気道・気管支炎、など内科疾患が多く、TOP20まで広げると精神科疾患、婦人科疾患が出てくる。
  また家庭医でなくても人生のスペクトラムにかかわりを持てないかというとそうではなく、循環器医でも専門性の部分から総合的な部分までかかわることができる。患者さん自身が情報を集めて自分の判断でコオーディネートすることができるかもしれない。このように錯綜する情報処理をどうするか、健診で引っかかった2次健診にどうかかわるか、疑問に感じたら相談に応じる機能はある。

◇ 家庭医の受け持つ対象者
  1000人の人がいると一ヶ月に何らかの症状を訴える人は750人、そのうち医師にかかる人は250人、入院を要する人9人で、3次的な高度医療が必要な人は1人といわれる。家庭医がかかわる人たちはこの250人に相当するが、個人でかかわるのか、団体でかかわるのか、アメリカでも議論が盛んである。

◇ 家庭医のまとめ
  まとめとして、“家庭医は責任を持って総合かつ継続的に診療するところに専門性があり、欧米では確立されているが日本ではまだなじみが薄い。一般の医療が変貌し社会の情報化が進むにつれて、家庭医のあるべき姿も変貌することが予想されかつ**することが必要である。


質 疑 応 答

質問:
  アメリカでは専門医に行く前のゲートキーパーとして家庭医の位置づけから、両者の間で軋轢を生じることは無いのか?
答え:
  アメリカ人はイギリスのゲートキーパーのように。行動を管理される仕組みには抵抗をしめす。彼らにとっては選択肢があることが重要であり、選べることを個人の自由と考える。複数の選択肢が存在し、お互いに足りないところを補い合うということが望ましいし実際にそうなりつつあるとおもう。
質問:
  家庭医学センターの病棟はどうなっているのか?
答え:
  家庭医学センターは家庭医とレジデントも研修医もいるグループ診療である。かかりつけと定義される人たちが60,000人いてこの中から毎日20名前後の人が入院する。総合医学の病床はかかりつけ以外に、飛び込みで総合ケアを必要とする人を受け入れているが、家庭医学の病床ではみんなかかりつけの人達である。専門的なケアを要する人は専門医の病床に入るが、家庭医が術後の人を入院で引き受けたり、外科医が入院中の人を併診することもある。
質問:
  精神科の疾患の研修はどうしているか?
答え:
  日本のようにブロックとして研修するのではなく、ソーシャルワーカーや臨床心理士や精神科医が日常診療あるいは教育に組み込まれている
質問:
  日本の大病院では病院に紹介をうけ、また逆紹介をするということを行政的に誘導されている。先生の話でいうとどのような位置付けになるのか?
答え:
  アメリカの医師は完全に独立していて病院に所属していない。だから診療の継続性に関しては問題が無い。
質問:
  家庭医の診療の統一性について。
答え:
  地域により、また医師個人によりカバーする範囲が決まっていく。例えばHIV感染症を多く見る家庭医もいれば、HIVの人を見ないで、感染症医に送ったり、HIVを得意とする家庭医に送ったりしている家庭医もある。
質問:
  アメリカでは損害補償が高くなりすぎて辞める医者がいると聞く。無保険者がたくさんいるなどの問題もあり。日本でもいろいろな問題が出ている。アメリカの現状を見て日本は何を目指したらいいと思うか?
答え:
  アメリカで障害保険料が高くなったのは件数が増えたのではなく、一回の訴訟による賠償額が高額になったためで、平均で6〜7千万円、死亡すれば10億円を超える。政府が賠償額に上限をつける動きがある。予算に1兆ドルを使って無保険者が4400万人(15%)いて、職を持っていても加入しない人がいる。米国の健康指標はWHOの評価では12位、日本の1位とはかけ離れている。医療費用が営利主義により株主や社長の報酬に還元され、25%は競合のための宣伝費に使われるなどといわれる。DRGやPPSなど削減の努力もしていて良い面もあるが、日本では厚労省よりこれをまねた削減策が出され、抵抗できない状態であるが、この方向性が暴走しないように国民にわかりやすく話しすすめていくことが必要と思う。そして、問題が何かを考えて前向きに対応していくことだと思う。株式会社導入はやめたほうがいい。保険は継続性のあることに意味がある。アメリカのように始めはいい保険に入っていても、リスクにあうとだんだん入れなくなる。環境の変化はリスクを増す。いいときに入っていても意味が無い。マネジドケアのひとつの利点は予防医療の発想だった。この利点も消えつつある。
質問:
  研修病院によっては高い意識を持った医師が集まる病院とそうでない病院とがある。それに関するプログラムの差についてなにかあったら教えて欲しい。
回答:
  研修のレベルの高さは個人的なものに関係する。ローカルでも良いから高い意識を持ったひとを育てる仕組みが重要であると思う。教育とは一対一のものであると思う。教師が生徒を育てるという感覚が重要だと思う。
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