講演会
●第14回医療制度研究会講演会講演要旨
「「日本医師会」が病院医療に求めるもの」
日本医師会常任理事 星 北斗 先生
星先生は36歳の気鋭の常任理事で、先ずお年の若さに驚きました。御出身は郡山で星総合病院の副理事長を務められています。父君がこの病院の創設者であり、幼い頃からお忙しい御両親の背中を見ながら成長され、学生時代から日本の医療のために何かをしたいとの思いから、卒後直ちに厚生省に入られたそうです。官僚として業務をこなすうちに、官僚制度の限界を感じておられましたが、その後ハーバード大学に留学、アメリカの医療システムのすごさと、外から見た日本の病院の急性期医療や施設の貧弱さを感じて帰られました。父君を通じて坪井会長にその思いを語られたことが縁で、厚生省を退職し日医総研主席研究員を経て医師会常任理事に抜擢され今日に至っておられます。
先生の御講演から、日本の医療について先生が感じておられることを、中澤の理解の範囲で要旨をまとめさせていただきました。
1.社会情勢について
日本では、限られた社会資本のなかでいろいろな業種がぶんどり合戦を行っているというのが現状である。ちなみにヘルスケアの従事者350万人に対して建設業は700万人、すなわち就労人口の5%がヘルスケア、10%が建設業といわれ、他のOECD加盟国での比率と反対である。金持ちから税金を集め、官僚が独善的に金の使い方を決めるという社会構造によるもので、社会が硬直化した原因である。アメリカではビルゲイツ等が多額な金を社会福祉に寄付しているし、教会を基盤に発展した病院は地域の誇りとしてとらえられ、地域社会の構成者はそれぞれに進んでこれを支えている。収奪された税金の分け前を分捕ることに腐心する我が国のシステムからこの発想は生まれない。
2.医療制度改革が求められる背景
昨今の医療制度改革議論は、経済が停滞し税収が減った、公共事業は経済波及効果が高いという盲信のもとに、あるいは事業の継続性という大義名分のもとに減らすことができない。だからヘルスケアにかかる支出を減らすというのである。しかし需要は高いから保険料を上げ、受診抑制を狙って自己負担を増やす。しかし国庫負担は困るというのである。少子高齢化が進み困難な状況にあると思うが、元気な高齢者にはそれなりにがんばってもらって地域に還元する仕組みを作ることが一つの解決策になると考えている。しかし、政府は財政主導で医療制度改革をしようとしており、一部では財源は第二保険の導入や、自己負担を増やす、混合診療で財源を作るという案が台頭してきているが、国民皆保険制度を維持するという根本方針の維持には邪魔になると思う。日本の医療制度はフリーアクセスと開業の自由を確保しながら皆保険を実現している点で世界的に希なすぐれた制度であると考えている。この制度が奇跡的にうまくいっている理由は、医療従事者が努力しているからであり、はかなくもその努力によって成り立っていることを知るべきである。
3.医師の団結と病診連携
日医は開業医の利益団体であるとか、自民党に献金する団体であるとか、医師の間でも勤務医と開業医との差の論議がある。いまの医療が置かれている状況を考えるとこのような議論をしているのは意味がないと思う。相手に侮られ、良いチャンスをあたえてしまう。いま、日医が音頭を取って関連する病院団体をひとつの場に集めて議論する場面が設定され、これからの医療をどうしようかという議論が進みつつある。
4.医療の現状での問題点
個人的に医療は大きく分けて予防、急性期回復期医療、終末期医療に分けられると考えている。高齢者の医療は終末期医療とも言えるが、金を注いでいる割には効果が上がらず、つぎ込んだ金は関連産業に流れ、意図することとは別の方向に進んでいる。急性期医療は制度として、欧米に比較すると骨組みは脆弱で遅れている。予防も十分ではない。老人保健法に基づく健診は、かけた費用の割には効果が上がらない様に見える。効果判定の仕組みが導入時に大蔵省の圧力で作られなかったというのが原因で、いまのままでは有所見率だけがわかるだけであり、成績評価は不可能という状況である。
5.医療事故について
医療事故は、当事者だけでなく医療システム全体に影響を与えている。重大なのは医師の新たなものへの挑戦の意欲をそいでしまうことであり、また必要な分野であっても例えば産婦人科のようにリスクの高い領域には医者が興味を持たないという現象が起きていて、結果として患者・国民に不利益をもたらすことになる。日本の医療においてゆゆしい現状である。
問題の解決の一助は、インフォームド・コンセントにあると思う。事故は完璧には避けられないものであるから、回避処置で避けられるものと、それでも避けられないものとを説明しなければならない。その上で国民に納得してもらうように議論を進めたい。日航機のニアミスで操縦士が着陸後事情聴取に応じないで弁護士のもとに走った話があったが、以前にも会社は事故の原因究明を放棄し、操縦士の身柄を警察に引き渡し、専門的な部分でパイロットを擁護しなかったことがある。それ以降パイロットは自衛することになったのではないかと思う。今の日本の医療、航空、警察、教育にも同じことが言える。
医師では医療の実践において、医師法によって刑法上殺人や傷害罪に問われないとされているが、法制上権利として認められているわけではなく、医学的な行為においてさえ死亡事故などがあれば、警察官が乗り込んでくる仕組みになっている。これでいいのだろうかと悔しい思いをしている。自分が起こしたかもしれない事故で死亡した場合にも、これは異状死体であるから警察に届け出でしろという。自白の強要を受けないという憲法上の保障に抵触するとおもうが、国立病院のガイドラインも医療事故を警察に届け出でをしろということになっている。専門分野に土足で践込んでくる連中がいる、これは何とかしなければならないと思う。
6.医療教育
現在の医学教育は大学病院で主に行われている。これは必ずしもうまくいっているとは思わない。安い労働力として若い医者を使うだけでは良い教育は出来ない。むしろ一般の病院や診療所が教育にあたるべきである。若い医者にとっては最前線で足りないスキルを学ぶことが重要で、病院だけでなく診療所の医師も参加できる仕組みが必要である。開業してしまうと大学との関係が疎遠になり、継続的な教育を受けることは難しいが、学生や若い医者が現場に出向き、地域で活躍する医師が大学に出入りをして学ぶことが出来る環境を作ることが必要である。また、教育には他流試合が必要で、出身大学の医局では緊張感が不足する。
医師におけるプロフェッショナル・フリーダムとは、単に医師に与えられた裁量や自由ではない。社会に対する責任を自覚し、自分の良心に照らしてその責任に応えられるために自由が保障されているのことを知るべきである。
7.医療の仕組み
医療制度改革において、提供側と、受ける側のフリーアクセスが守られなければならない。これが根幹であると思う。このことについてはプロという意識で主張し、国民の理解を受けなければならない。残念ながら、国民は医療に進んでお金を払おうとしない。下手をすれば医療はただだと思っている。皆保険を認めたことが一つの大きな要因であるが、この皆保険が世界で一番幸せな国民を育てたのだから嘆いてはいけない。この制度の成功は医療側の努力によるものであったが、これは理解されなかった。この制度をたてに稼ぐ悪いやつ、責任回避のために事故を隠すやつ、医療の信用はこれにより失われた。内部の悪を排除し、信用を回復するためには、こつこつやるしかない。特に医療安全の問題は、官僚主導行政主導ではうまくいかないから、民間病院における医療事故報告制度や、トラブル解決のための第3セクターのような地域密着型の仕組みが出来ないかなと考え準備している。警察の介入ではなく自浄作用を発揮し、病院が再発防止の対策をたてられるように出来ればと思う。官僚は膨大なデータを独り占めにしているが、厚生省では医療安全の問題を根本から解決しようとは・・考えていないし、その能力もない。厚生省が欲しいのは報告だけである。われわれは日医総研を作った。これを活用して真に国民のための政策を打ち出す用意がある。
8.政策の実現について
政治の力は政策の実現に必要である。日本医師会は参院選で武見敬三氏を押すことを決めている。看護婦が清水加嘉与子さんを押すが、武見は得票で負けるのではないかといわれる。これでは医師はまだまだ困っていないと思われてしまう。必要なのは力であり、力は今度の参議院で試される。ヘルスケアを共通の基盤とする人々が集まり少しでも力が発揮されることを願っている。
9.質疑応答
質問:
Drフィー、ホスピタルフィーについてのお考えは?
回答:
当然分離すべきであると考えている。現行の日本の病院制度の中で実現することは難しいが、医師に、頑張ろうという気を失わせているのも事実である。明確に分離すべきであると考えている。
質問:
もの(医療材料など)の値段が日本では極端に高く資源を無駄に使っている。そのうえ金は周辺産業に流れている。ものの値段が高いことだけでも日総研が情報公開してほしいと思う。ニアミスでもそうだが起きないようなシステムを作ることが必要。それに必要なのは人手だと思うが、こと医療となると簡単にたるんでいるととられてしまう。医療関係者が素直に実体を言えるような情報の資源を作らなければならないと思うがいかがか?
回答:
ものの値段についてはMOS協議で貿易不均衡是正のために政治決着がされており、自動車を売るため、米を輸入しないための交換条件として医療材料は高く買っているといわれている。日医総研では、健保組合は赤字というが計算のやり方で実際は黒字であるとか、医療経済実態調査で10%改善といわれる報告は、増加している診療実日数で是正したらマイナスになっている問題など、いろいろな事実を調べては報告している。われわれが言ってもなかなかマスコミは書かない。これが伝わらない一つの原因である。これからもエビデンスは作らなければならないし、粘り強く続けていきたい。
質問:
再診料に病院と診療所の差をつける、病診連携をやろうと思っても逆の効果になる。政策的に日医と厚生省は似通っていると思ってしまうがいかがか?
回答:
今回の改訂で外来患者数は増加すると思っていたらその通りになった。同時に単価は下がって収益は下がった。そもそも細かい診療報酬の操作でことを運ぼうというやり方はナンセンスと思う。これからは病院を入れた全体的なあり方をベースとした議論が出来るようになるのではないかと思う。
質問:
病診連携が進むと大病院の救急外来が増えると思うが、この件に関して考えは?また制度上のバックアップについては?
回答:
病診連携をやる病院は2次救急をしっかり受け入れるべきである。救急は小児科にしても、循環器にしても、スタッフ確保が重要だが、応援を大学病院に求めても、大学の教育方針との落差もあり人材の確保が難しいが努力で解決するしかない。救急医療に関する診療報酬の問題を持ち出されるとしんどい。無闇に上げると質の低下や患者の奪い合いが起きてくる、更には24時間診療を掲げて地域医療のバランスを崩す要因となるかもしれない。良い医療のために救急医療を充実しようという前向きの考えが必要と思う。経済誘導は薬価差益解消の問題でも、調剤薬局にかかる費用が多くなり、薬価差をけずって財源を確保しようとした意図とは反対の効果が出てしまっている。診療報酬をいじって経済誘導を行う手法からそろそろ脱却する時期であると思うし、次の知恵を考え出し行動を起こさなければならない。
質問:
材料費が高い、技術料が低いなどといった制度の問題は日医がアピールして、国民を味方にする努力をして欲しいと思う。紹介率の問題は初診が大部分を占める救急をやればやるほど評価が低くなる矛盾を抱えている。
回答:
その通りと思う。
質問:
日医は大病院の総枠予算制を打ち出しているがこの件について
回答:
日医としてはひとつの選択肢として、主に特定機能病院にコスト意識を喚起する目的でやったらどうかという議論を提供しているという認識である。実際に行うのは難しいと思う。原価をベースにした総枠予算制はならば良いのではないかと思うが、その算定は今のままでは困難である。診療所はそのままで病院のシェアだけを減らそうとして考えたという議論にはしたくない。
質問:
急性期病床を将来的に半分に減らす。これは医療の質を上げるためにも、マクロの経済的にも必要と言われているが、病院の数を少なくして医療の配分をきちっと厚生省や日医が出来るのか、実現すれば将来希望が持てるようになるのかお考えは?
回答:
病床数を単純に半分にする事は統制によりやることになるだろうが、無理だと思う。医療はもっと自由で活気があり、かつきちんと責任を果たすという業界であるべきであると思う。これに関連して株式会社の参入問題があるが、儲かることだけをやり、採算のとれない部分を避けるというのも許されないと思う。未来がバラ色ばかりとはならないだろうが悲観はしていない。
問題:
母親がリウマチで入院中に転倒骨折した。動けない病人をどうして骨折させるんだ。と父親に憤慨されたが、看護婦は忙しいからと納得してもらわなければならなかった。土木工事を中心とした社会でなく、安心して医療にかかれる社会システムを考えないとならないと思うがいかがか?
問題:
医師会がひとつの党を応援しないとならないというのは、現在の政治状況を考えると別な党を押すという選択肢はないのか?
民主党の医療政策を知ると、そんなことはいっていられないと思う。健康な都会のサラリーマンをメインとする政策は、医療の実態とは認識のずれがあることを知ってもらいたい。
後記:
議論白熱の一時間でした、日医の中枢部の御意見が聴かれたことは有り難いことでした。また現状の認識にはさすがに情報の中心にあるかたの分析だけに鋭いものがありました。手法はともかく、目指すものには大きな隔たりがないことを確認したことだけでも有意義であったと思います。来年もまたその後の改革を確認する機会があることを期待して、先生の御活躍を祈りたいと思います。
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