医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

第5回 EBMの概要と今後の医療について < 第1回 〜 第10回 > 第7回 アメリカの医療システムの現況

講演会

●第6回医療制度研究会講演会講演要旨

「世界平均から大きく外れる日本の医療」


国立医療・病院管理研究所 医療政策部長 長谷川敏彦先生
 長谷川先生は、世界水準と日本の医療を比較するのに、OECD(経済協力開発機構)のデータを用いて研究されています。我々が日頃感じている日本の医療を如実に物語るようなデータをお示しいただくことが出来ました。以下に御講演の内容とを要約いたします。

 日本の医療は各国との比較において、世界の水準とは例外的な数値を示すといわれている。OECD Hearth Data より先進27カ国の1960年から1995年までの35年分を時系列で分析した。
日本の医療は一口にいって投入が多く、費用が少ないということが出来る。例外的に多いと考えられる変数を1に少ないと考えられる変数を2に示す。

1. 日本が例外的に多いと考えられる変数。
1) 総病床数と急性期病床数
 総病床数は30年前では世界の平均値であったが、急速に増加した現在ではOECD平均の2倍以上の数値を示す。急性期病床数も同じ様な値を示す。
−老人ホームの病床数は平均の0.62倍と少なく、老人ホーム定員数と一般病床数と加えたものでは1.6倍、さらに診療所の病床数を含めると1.9倍になるが、全体の病床数で見るとOECD平均の標準偏差内にほぼ収まるといえる。

2) 平均在院日数
 1960年代では各国と同じ様な平均値であったが、以後増加し1993年では各国平均値8日のところ日本は35日であり4.4倍の数値である。

3) 医師接触数
 外来総数と考えられるが、一貫して高く、約3倍の値を示す。

4) 医薬品の消費率
 対GDP(国内総生産)比で表すとかっては例外的に高かったが、いまでは平均の範囲内に下がってきた。

5) CT,MRIの普及率
 日本は大きな例外値を示しており、OECD平均の約10倍になっている。

2 . 日本が例外的に少ないと考えられる変数
1) 入院回数
 一貫して少ない。一般病床への入院回数はOECD平均の0.52倍にすぎない。

2) 総医療従事者数
 一貫して少ない。OECD平均の2/3。

3) 医師数
 各国が増加しているのに反し、伸びは鈍く、1993年では0.67(平均の2/3)。

4) 看護婦数
 正看護婦数はほぼOECDの平均値である。しかし、総病床数に対する割合では0.5と世界平均の約半数である。
5) 総病床数に対する病院全職員の割合は、0.41であり低い。

3. 医療費関連
1)総医療費
 対GDP(国内総生産)比では一貫して低い。年次変化も一貫して低い。

2)急性期入院医療費(日本の場合は結核と精神病の医療費を除いたもの)
 
一貫して低い。1993年にはOECD平均の約半分である。

3) 入院医療費
 総入院医療費でも、急性期入院医療費で見ても、特に低い数値を示し、1993年ではOECD平均の約半分であった。しかし、日本では入院回数が少ないため一回あたりの医療費はほぼ平均値となる。

4) 外来医療費
 外来医療費はかってはOECD平均を上回っていたが、1993年にはほぼ平均値となる。しかし、医師接触数が多いため、一回あたりの医師接触にかかる費用はOECD平均の0.39ときわめて低い値を示している。

4. 健康結果
1) 平均寿命、乳児死亡率
 過去6〜7年間世界一良好な成績を示す。

2) 70歳以下早死に損失
 世界一低い
参考1: 医療従事者の給料
医師はOECD平均の約1.2倍、看護婦は0.98倍とほぼ平均である。

考察
1) 費用と評価
日本の医療費は対GDP比で見る限り、先進諸国に比べて少ないといえる。しかし、GDPの伸びが著しいので、実際の医療費はさほど低くないという見方もできる。
入院医療費は、日本の入院形態が他国と異なるので、一概には比較できないが、入院回数が少なく、一日の入院単価が少ないことが特徴であり、投入している人的資源が少ないことが原因と考えられる。総医療費で見ると日本の入院医療費は極端に低いといえる。
外来医療費は総医療費で見るとほぼ先進国並である。しかし、日本の特徴は一回あたりの医療費はきわめて低く、件数で稼いでいる感がある。医療費の内容は医薬品にかける費用が高く、人よりものに重きがかかっている。

2) 効率
人口に比して少ない医療従事者数で、入院回数が少ないということであれば効率がよいと考えられ、外来の受診回数が多いことが、入院回数が低いことにつながると考えるなら、外来一回あたりの単価が低いことを考えると効率がよいと考えることができる。
健康指標と医療システムとの関係は一般的には薄いと考えられており、日本のそれが世界一であることが医療システムの結果であるとは言い切れない。
健康指標と関係する要素は、教育、経済、文化などの影響が大きい。日本の平均寿命との関係で見るかぎり、1920年生まれの女性の集団が平均寿命を押し上げている現実か見ると、ちょうどその年代から革命的に婦人教育が改善されており、教育の影響は大きいと考えられる。

総括
1) 日本の医療体制は低い人的資源投入の基に行われている。
2) 薬品、高額医療機器、病床数など物的投入はきわめて大きい。
3) 健康指標の良さと医療費総額の少ないことから見れば効率はよいシステムであると考えられる。
4) 病床数、平均在院日数の多さは効率から見ればよくない指標ととれる。分化が行われることが必要であろう。

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感想:長谷川先生に示していただいた成績は、現場での印象とぴったり合うものと思います。何でこんなに医師も看護婦も忙しいのかという疑問がよくわかります。医師と病人の接触回数が多いのは、医療側が求めて行っている診療形態というよりは、一回の投薬日数が規定により決められていて−これが安全面につながっている考え方もありますが−受療側も、提供側も不本意な通院を強いられている現実があります。 高齢化による有病者の増加、予防医療の加熱は、国民側の低い負担率も影響して、ますます医療需要を引き起こしています。つまり、薄利多売は医療側の選択ではなくて、政策で誘導された結果と考えられます。
その一方で、薬価や高額な診療材料、高額機器使用の検査など、ものに対する価格が規制により支えられています。この統制経済システムに、医療単価の低額誘導が行われると、医療機関の経営方針は人件費削減にならざるをえないし、利益が出る薬や検査に重きを置くという現状とぴったり重なります。普通に考えれば、規制を外して通院日数を減らしたらどうかということになりますが、外来からあがる収益が頼りの病院では、政策誘導は入院費削減なのでこれも難題です。院内感染、高度化する診療内容、病人の権利(Patient's rights)擁護など、ますます人手が必要な現代医療に、にっちもさっちもいかなくなった医療側の悲鳴を、これらのデータの中から読みとってしまいました。
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