医療制度研究会 〜21世紀の医療を共に考える会〜

第2回 日本の医療制度とその問題点 < 第1回 〜 第10回 > 第4回 介護保険の全貌

講演会

●第3回医療制度研究会講演会講演要旨

「DRGと医師技術料」


慶応大学医療政策学科 池上直己教授
 包括支払い方式の中で唯一、実現性のあるといわれるDRGに関する講演を、川渕先生に御願いしました。講演の要旨をお届けするつもりでおりますが、現在の支払い方式から考えると、大きな違いがありわかりにくいので、川渕先生の著書「DRG/PPSの全貌と問題点」(薬業時報社)を参考に解説も加えました。内容は川渕先生にチェックをしていただいています。

1.川渕孝一先生講演要旨:
<DRGとPPSについて>
 DRG(Diagnosis Related Group)は診療上の効率を考えるのに、患者の特性を重視した統計上の指標として、アメリカで提案され、当初の目的は医療機関内の医療の効率を高めるために開発された。当時のアメリカでも日本と同じく出来高払い制により膨張する医療費の歯止めをかけるのに包括支払制度PPS(Prospective Payment System)が求められており、DRGがこれに利用されるようになった。

1)DRG(診断群別分類)が行われる理由
 現在行われている出来高払い制は、必要な患者に必要な額の医療費が使われるという点で、医療保障の面からいえば合理的といえる。しかし費用に財源が追いつかないことで追求される包括払い制は、老人慢性期疾患では全ての患者に一律に適応できても、急性期の医療には患者毎のばらつきが大きく簡単に適用することは出来ない。そこで診断による群別を設けて包括の資料にするというのがDRGで、急性期の医療を包括化するためには合理的な考え方といえる。包括払いの導入が避けられないならば、この方式は真っ先に検討されるものであり、実際これ以外に急性期の医療を包括する制度は提案されていない。

2) 診断群の決定
 DRGは疾患別に医療効率を考える指標である。そのためには、疾患を分類して、推計が可能ないくつかのグループに分けなくてはならない。数千ある疾病を数百に分類しなおすことでこれは可能になる。主な分類は臨床上似通ったものをくくることになり、主な診断カテゴリーに分類される。これは国際疾病分類(ICD9−CM)に基づいており、臓器別か感染症などの全身が関連するものが含まれ25分類になる。
つぎに医療資源の消費パターンは大きく手術室を使用するかしないかで分類される。手術室を使用する場合は外科の分類に入り、それ以外は内科系の分類に入れられるが、この場合は臨床上の分類を必ずしも意味しない。外科系はこれに手術コードが加えられ、術式や処置の大きさ、範囲などを加味して再分類が行われる。内科系は臓器別に分けられた大分類から脈管障害、感染、新生物、外傷、などと細分化されて分類が行われる。
その後合併症、併発症、年齢などで患者が医療資源とどう関係するかが加味されて、DRG(診断群)の分類が決められる。入院患者はこの診断群に当てはめてコーディングが行われる。

3)医療効率を測る指標としてのDRG
 次に、数十単位の病院における数万人規模の患者について、診療にかかったコストを個人別に算出して、診断群別に分類すると、分類毎にコストの平均値が算出できる。これをもとに色々な指標で経済効率が検討される。診断群中の平均的患者の処置にかかるコストは、平均値をとれば計算できる(平均的コスト)。また、疾患群毎に異なる平均的コストの平均値を、患者数で補正して算出すると、標準となる診断群の平均コストが計算される。この値を1として他の診断群との比をとると、診断群別のコストを比率で現すことが出来る。これを相対係数という。さらに病院の特性、立地条件、病床数、教育機能などを考慮して調整係数が計算される。ついでに、コスト構造、平均在院日数、症例数なども算出される。同じことを病院毎に計算して、病院の平均値として比較すると、その病院の診療効率を分析することが出来、経営の分析に用いられる。DRGは当初はこの目的で開発されたが、逆に保険からの償還額を決めれば、DRGで算出された指標を用いて診断群別に支払う額が算出することが可能になり包括払いに用いられるようになった。

4)DRGと包括払い
 DRGが包括払い方式に組み合わされた場合は、平均的患者ひとりを処置するために要する平均コスト(ベースレート)を設定すると、各診断群の包括額を決めることが出来る。ベースレートは政策的に医療費の総枠に深く関係する価格設定の基盤となる。具体的には、保険で支払うことが出来る医療費の総額からベースレートを算出すれば、個々の診断群別に計算された相対係数(相対的ウェイト)を乗じることで診断群別料金が算出され、包括料金が決まる仕組みである。
実際のコストとの乖離を防ぐための必要性から、ベースレートを算出するにあたっては、病院に特異的な患者構成、教育病院かどうかなどの違いを加味するケースミックスインデックスを用いて医療機関の不公平を是正し、やむおえず長期になる入院については一定の救済処置が付けられる。

5)日本で実施される場合
 日本で行われるとすると、DRGのコード付けのために、病名コードを統一する必要がある。現在厚生省はICD9を基本にコードを作成中。アメリカでは全国の病院の病名はICD9−CMに統一されていて、これ以外は使用できない。日本ではまだ統一がされておらず、制度として施行するためには病名の整備が必要となる。この病名統一がまだ行われていないことを逆手にとって、ICD9の改訂版であるICD10を最初から統一基準として導入すべきと考えている。
患者別のコストデータ(診療報酬データではない)はまだどこの病院でも計算されていないので、部門別原価計算のデータから患者あたりのコストを計算して、さらに患者の医療サービスに使用された医療資源の総量を加えてコストデータを作成することになるが、部門別原価計算も、患者別のコストを計算するのも、コンピューターソフトを開発しなければならない。

6) 米国におけるGRGを日本に当てはめた場合
 アメリカにて行われている三つのDRGを日本に当てはめた場合を想定して、川渕氏は平成9年に医療経済研究機構の研究として、調査研究を実施した。民間病院17病院121、543人のデータが収集され、下記の3方式について検討が行われた。

HCFA−DRG…メディケアの支払い方式に使用された。高齢者対象492のコード
AP−DRG…メディケア患者以外の全てを対象641のコード
APR−DRG…AP−DRGの改訂版1530のコードを含む

 主な結論は、我が国にもDRGに基づく包括支払い方式の施行が可能であり、AP−DRGが最も有用、相対係数は米国のそれと似通ったものになった。長期療養者の扱いは日本に導入した場合は別に検討が必要である。オープンシステムの米国ではDRGにドクターフィーは含まれない。今後DRフィー、ホスピタルフィーの検討が必要。移行に米国では4年を費やしている。その間リスクコリドー(一定の救済処置)がとられ、最終的には病院固有のベースレートをゼロにしたが、急激に行うと病院に負け組と勝ち組が分かれることがデータから明らである。

7) DRG/PPSが米国の医療界にもたらしたもの
 高齢者保険であるメディケアに診断群別支払い方式が行われた結果、入院率の低下、入院患者の減少がメディケアだけでなく全ての患者におこり、中には病院閉鎖や合併が行われた。50床以下の小規模病院にこの変化は著しかった。メディケアの入院日数は導入時減少したが、後は横這い状態であった。病院への支払額は一時増加し3年後に下落、病院間での支払い格差が広がった。
患者への影響はメディケアの平均在院日数が減少したが85歳以上では入院率は変わらない。メディケア患者の死亡率は若干増加した。
病院以外の施設では在宅ケアと特殊介護施設(スキルドナーシングホーム)の患者数が増加した。在宅ケアの患者のニーズが多様化した。ハイテク在宅ケアと介護サービス中心の長期ケアの需要が増加した。
外来の医療費が高額化し患者数が増加した。
診療内容審査のために、医療行為の適切性、必要性、祖診粗療を監視する機構が必要となった。などの変化が見られた。
医療費の動向は、メディケアでは入院費の増加率1.2%になり過去最低だったが、外来医療費の増加が著しかった。医療費の逓減効果はあったと考えられている。

8)国立病院での急性期包括払いの実施
 厚生省は既に今年の11月から国立病院8施設と2つの社会保険病院で、試験的に診断群別総括払いを開始した。さきに同じ病院で入手したデータに基づいて作成したDRGにより包括払いが実施されている。概要は下記の通り。

DRGは計算の根拠を現行の医科点数表もとにしており、正確なコストデータは使用していない。
診断群分類は183で合併症が加味されている。
定額の範囲は入院環境料、看護料、入院時医学管理料、検査料、画像診断料、投薬料、注射料、1000点未満の処置料である。
指導管理料、手術料、麻酔料、放射線治療料、1000点以上の処置料、リハビリテーション料などの技術料は今まで通り出来高払いとしている。
定額報酬の額の算定は算定式に基づき診断群別定額報酬額=ベースレート×相対係数×調整点数×10円で計算され、ベースレートは38、803点、調整点数については、看護基準により病院間の看護料に差が出ることから、ベースレート算定に使用された看護料より多い看護料を算定している病院には上回る分を加算している。
ベースレートは平成8年度に同じ10病院を対象に行ったDRG調査に基づき、この10病院に支払った医療費の総額を、相対係数の加重平均値で除して求めた点数に、平成9年、平成10年に行われた診療報酬改定率を加算して計算された。
長期入院には現行医科点数の入院管理料、看護料、入院時医学管理料を追加的に支払う。

ICU、CCUなど特定入院料を算定している患者については出来高払いとなっている。
以上の実施要綱により行われた内容は、厚生省の試行調査検討委員会に報告され、入院患者の基礎調査、診療内容の変化が検証される。

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感想:御講演および先生の著書「DRG/PPSの全貌と問題点」を参考にまとめました。診断群別包括払い方式は、合理性、他に選択肢がないこと、世界各国が導入しあるいは導入を検討していることで、病名コードの統一、原価計算の必然性などの基盤整備の必要はあるものの、かなり実現性が高いと考えられます。医療側には現行の出来高払いからは180度の転換になること、原価から解離した「日本型」(日本という文字は使ってほしくない)がでる可能性があること、独自の検証を行うにはかなりの規模の病院間の協力が必要なこと、など課題の多い制度改革ですが、合理性を要求するためには、医療側からの研究が怠れない分野と考えます。ちなみに厚生省が行っているDRGでは脳梗塞緊急入院は在院期間39日で886,570円、白内障手術片眼は8.5日で211,400円、胃癌手術は胃全摘、噴門即胃切除、化学療法、放射線治療ありで49日で1,425,510円だそうです。


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